ローラタウン

第5話 町長夫妻とご対面

「まあ、貴女がメアリーちゃんね! 私はマリア・フローレンス! 隣に居るのが私の夫でローラタウンの町長よ」

「マイケル・フローレンスだ。宜しくな嬢ちゃん!」


 ローラタウンの入り口で町長夫妻が出迎えてくれた。二人ともトム爺さんからの手紙を見て態々出迎えに来たのだと話す。

 二人とも穏やかそうな人で安心した。


「初めまして、メアリー・ローリエです。このブローチが本人だという証です」


 挨拶すると共に私はお祖母様の手紙で書かれたこと、ブローチがお祖母様の孫だという証だというのを思い出し二人に見せるとマリアさんはニコッと笑って、大丈夫よと言う。

 どういう意味?


「ブローチがなくても貴女がメアリーちゃんだって解るから安心して、貴女のお祖母様が母宛に送ってきた手紙に書かれた通り可愛いお嬢さんだもの」


 可愛い?

 可愛いって言った?

 お祖母様以外の人から初めて言われた!!

 というか、それだけで本人認定していいの?


「此処までの長旅は疲れただろう。案内がてら俺達が経営している宿屋も兼ねてる食堂へ行こう!」


 ガシッと手を掴まれて半ば引きずられる。マイケルさん、力あるな~と思いながらローラタウンの商店街を案内された。


「はい。この食堂の名物料理の魚のパイ包み焼きよ。熱いうちにどうぞ~」

「ありがとうございます! いただきます!」


 最後は商店街の端にある食堂兼宿屋へ。

 マイケルさんが私を案内している間、マリアさんは一足先に戻り料理を作って待っていたのだ。

 湯気が立つ料理を見た時、短時間で作るの大変だったんじゃないですか? と聞いたら生活魔法・料理術の上級をマスターしているから大変じゃなかったわと話してくれた(と言っても下準備はしていたもよう)。

 マリアさんは昔、お祖母様の紹介で王都のレストランで働いていたそうだ。そこで料理術を教わったのだという。この件について本当に私のお祖母様に深く感謝しているとマリアさんは語った。


「どう美味しい?」

「はい! すっごく美味しいです! パイ生地はサクサクで中の魚はホクホクでこんなに美味しいパイ包み初めてです!」

「あらそうなの? 喜んでくれて嬉しいわ」

「ハハハ! こう言っちゃ失礼かもしれんが貴族のお嬢様だから、こう上品に食べるものかと思ったんだが結構ガッツリと食べるんだな!」

「貴方! ごめんね、メアリーちゃん。ウチの主人が・・・・・・」

「いえ、貴族のお嬢様だからって萎縮されるよりは全然マシです」


 一応、言い訳を言わせてもらうと今こうやってガッツリと食べているのはこの場だからであって晩餐会ではちゃんとしっかりマナーを守り、大貴族の娘としてお上品に振る舞っておりましてよ?

 お祖母様には幼い頃から徹底的にマナーや教養を身につけさせられた。

 お祖母様曰く、貴族の世界はマナー一つで何を言われるか解らない世界だからと。


 貴族の世界は退屈だ。優雅に見えて色んな見えない鎖があって自由に動けない。

 だから、誰かがミスをしたのなら直ぐに知れ渡り、一生その事を言われ続ける。つまり、退屈のはけ口として扱われるのだ。

 そういう人達を何十人と見てきた。

 気を抜いてはならない、例え親しい間柄でもいつ敵になるか解らない、そんな世界。

 この町の人達はどうなんだろう? 案内されてる時に挨拶程度だったけど、皆、好意的に接してくれた、でも内心は・・・・・・?


「メアリーちゃん、どうしたの? 手が止まってるけど・・・・・・」

「あっ、すみません。ちょっと考え事してて。パイ包み、とっても美味しいです! 嘘じゃないですよ!」

「うふふ、そう。・・・・・・ねえ、メアリーちゃん。この町は移住者が多いの、町の人達も慣れてるわ。中には移住者を快く思わない人達も居るけど、そういう人達は関わってこないから安心して」


 マリアさんはニコリと笑って大丈夫だからと安心させるように私に話す。

 不安が顔に出ていたのかな。

 いけない、折角、あの家を出て新しい生活を始めるのに暗くなっちゃうのはダメよ、メアリー!


「マリアさん、ありがとうございます。安心しました」

「ふふ、誰だって不安になることもあるわ」

「ああ、だから、そういう時は俺達に話してくれ解決できるかどうか解らんがな!」

「もう、貴方ったら!」


 豪快に笑うマイケルさんをマリアさんは咎める。

 明るい雰囲気に本当に最初に出会ったのがこの人達で良かったと心の底から思った。


 パイ包みを食べ終わるとマイケルさんが。


「嬢ちゃんの祖母さんが俺達に託した家を案内しよう」


 と言ってきた。


「此処だ」


 案内されてやってきたのは町の外れにある小さな丘に建てられた家だった。

 結構な距離を歩いたからゼーハーと息を切らしながら私は家を見る。こぢんまりとしたお伽噺に出てくる小人が住んでいる家みたい。

 花壇らしき場所は花は植えられていないけど綺麗に整地されていて、聞けば、私が来ると解った日に綺麗にしたのだという。


「月に一度は掃除する程度だったからな。あと、窓がひび割れてないか家に穴が開いてないか確認したぜ」

「あ、ありがとうございます! 隅から隅まで!」

「町長になる前は何でも屋に近い大工をやってたんだ。こんなの軽い方よ。ほら、これが鍵だ。もし家で困った事があったら俺に言え、大工業は今は息子に譲ったから俺から息子に伝えるよ」

「本当にありがとうございます!!」

「おう、それじゃあな」


 鍵を受け取るとマイケルさんは帰って行った。

 マイケルさんが見えなくなるまで見送ると私は鍵を開けて家に入る。

 ふふふ、先ずは荷物を置いて少し家の中を見て回ろう。

 勢いよくドアを開けると。


『む? お前は誰にゃ? ワガハイの家に何か用かにゃ?』


 家の中に喋るムッチリ体型の三毛柄の猫が居た。

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