第4話 家出した後の屋敷の人々の反応②
「それは本当か?」
「はい、間違いないです。この耳でハッキリと聞きました」
「私もあの場に居ました、イサベラの話は本当です。奥様はハッキリとメアリー様にアレフ様を誘惑するように言ったと言いました」
あの後、イザベラはアンジェリカとメロディーに仕えるメイドの一人である同期のディジーと共に執事長にアンジェリカの例の発言を報告していた。
報告を聞いた執事長は顔を更に青白くさせ、困惑を隠しきれない。
「そ、そうか、奥様がそのような事を・・・・・・」
「きっとメアリーお嬢様の失踪と関係あります!! 旦那様にお知らせを!!」
「・・・・・・・・・・・・」
「執事長?」
「・・・・・・先程、旦那様にメアリー様の件をお伝えしたんだがステファニー様に関係のない事だと真面に取り合って貰えなかった」
「そんな!?」
執事長の話に今度はイザベラが困惑する。
当主であるダニエルが病気で亡くなった前妻・カナリアとの間に生まれた長女・ステファニーを溺愛し、後妻のアンジェリカ、彼女との間に生まれた双子のメアリーとメロディーに興味がない事は屋敷の者のみならず、領民、交流を持つ貴族の中では有名な話だ。
だからといって、流石に失踪ともなれば流石のダニエルも動くとイザベラは思っていた。
だが現実は残酷でダニエルはステファニーに関係ないと切り捨てた。
「お茶会が終わった後に旦那様に報告しよう。だが、同じ反応を返されるかもしれない。期待はしないでくれ」
執事長はそう言って、その場を離れ。イザベラはショックのあまりフラリと倒れそうになるがディジーが支えてくれたおかげで倒れることはなかったがその場でペタリと座り込む形になった。
「そんな、そんな・・・・・・」
「イザベラ・・・・・・」
悲しみにくれるイザベラの背をディジーは優しく撫で続けた。
「・・・・・・美しい、美しいよ。ステファニー。まるでカナリアが戻ってきたみたいだ」
「・・・・・・・・・・・・」
その頃、ダニエルは婚約した王子を出迎えるために着飾ったステファニーを見て感激のあまり涙を流し、ステファニーはそんな父を真顔で見つめていた。
「きっとカナリアがこの場に居たら、さぞ喜んだだろう! そして、感激の余り私と共に涙を流したに違いない!
だが、婚約した者が王族とは言え王位継承権がない公娼との間に生まれた第三王子。王族からとんだお荷物を押しつけれた気分だ。
しかし、相手はあくまで王族。お前の事だから心配ないと思うが失礼のないように」
「はい、お父様」
機械のように返事をするステファニーを見てダニエルは満足そうな笑みを浮かべ、小声でカナリアと呟いた。
「チンタラしてないで早く紅茶を淹れて来なさい!!」
「は、はい! ただいま!」
アンジェリカはというとメロディーが自室に入るのを見届けた後、自身も自室に戻り、メイド達にイビリ散らしていた。
「折角、少しの間だけでも親密になれる機会をくれてやったのに、メアリー、あのバカ娘! 本当にダメな子!」
居なくなったメアリーの悪口を言い続けながらアンジェリカは考える、メアリーが居ない今、どうやってステファニーから婚約者を奪ってやろうかと・・・・・・。
自分に似て美しいメロディーに婚約者を奪うなんて汚れ役はさせたくない。
だからメアリーにさせようとしたのに居なくなった。
「なんで居なくなるのよ!! 本当に訳が解らないわ!! 王位継承権を持ってないけど相手は王子!! この話に飛びつくのは当たり前でしょ!? どうして!? どうしてなのよ!!!!!!」
苛立ちから扇子でテーブルを叩くアンジェリカに周囲のメイド達は恐ろしさの余り顔を強ばらせる。紅茶を持って行こうとしたメイドに至っては涙目だ。
そんな周囲の反応を余所にアンジェリカのイライラが頂点に達しようとしたとき。
「ああ、そうだわ。良いことを考えたわ。居ないなら、フフフ・・・・・・」
今度は突然、笑い出したアンジェリカにメイド達はドン引きするのであった。
フラフラとイザベラは自室へと向かっていた。ディジーを始めとする同期のメイド達に休むよう言われたからだ。
「・・・・・・メアリー様」
突然、居なくなったというのにダニエルもアンジェリカも気にとめない、アンジェリカに至っては役立たずと怒る始末。
あの二人の反応を見てイザベラは痛感する。
ローリエ家にとってメアリーはどうでもいい存在なのだと。
実の子なのに、どうして? という気持ちが渦巻く中。
「イザベラさん」
庭師のトムがイザベラに話しかけてきた。
「貴方は庭師のトムさんじゃないですか、何か?」
「貴女にお渡ししたいものがありまして」
「渡したいもの?」
「これです。メアリー様からのお手紙です」
「メアリー様から!?」
メアリーはローラタウンへの案内が来るまでの間、イザベラへの手紙を書き、それをトムに渡していたのだ。
イザベラは差し出された手紙を取ると居ても立ってもいられなかったのかその場で読む。
一通り、手紙を読み終えるとイザベラは深く息を吐き。
「よし。辞表を書こう!」
そう元気よく宣言し、そんなイサベラを見てトムは和やかに笑った。
その夜、イサベラは辞表を出した。
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