エピローグ

 気付くと迷宮の入口、否、出口にいた。エシュは空いた左手の違和感を抱く。くしゃくしゃの札束が無理矢理握らされていて、数えると報酬の金額と一致していた。


(悪魔、か)


 悪魔のような奴、ならばそこらかしこにいるだろう。それでも、本物の悪魔というものはとても珍しい。


(精霊も、神もいるのであれば⋯⋯まあ、居ても驚くようなことではないか)





 誰も知らず、だが当たり前のことではあるが、エシュには家族がいる。


「まとまった金が手に入⋯⋯っ、た?」


 出迎えた青白い顔の女は、妹分だった。その顔に死相が浮き出ているのはいつものことだ。問題は、そのふざけた格好だった。

 青いドテラを二枚重ねにして、額と両頬にはどこから持ってきたのか冷えピタを三枚重ねで貼っている。やたらゴツいマスクの両脇からは口に加えた体温計が左右に一本ずつ。ドテラの下ではケツにネギをぶっ刺しているのが見えなかっただけまっだマシだったのかもしれない。


「よほ! れふにい! 世界的な流行病にかかっちかったふぇはいふぇひなはやひひゃまいにふぁふぁっちふぁった! くしゅり! はよ!」

「貴様、また勝手に出歩いて⋯⋯!」


怒りに震えるエシュの腰を突いたのは、浅黒い肌の少年。利発な弟分だった。


「⋯⋯言いたいことは分かるんだけどね。なんか謎に流行し始めたこの病気、。焼き払ってもどうしようもなかったよ。世界的にも結構死者が出ているらしい。おまけに特効薬はまだまだ値段が「おい」


 エシュが頭を抱えた。

 とても嫌な予感がする。


「いくらだ」


 弟分が耳打ちする。ちょうど依頼の報酬金額と同額だった。


「あの、クソ悪魔め⋯⋯ッ!」


 最後の最後に一杯食わせて、果たしてチップのデーモンは大笑いだったろう。この結末はエシュの選択の結果だった。選択には責任が伴う。言い訳できようはずもない。

 傭兵は報酬の札束片手にすぐさま走り出した。

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副業傭兵の『オルタナティブ』 ビト @bito

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