第五問『砂漠』

 灼熱の砂漠。沈まない太陽と乾いた砂だけの空間。

 エシュは無言のまま約20㎞を踏破した。


「アレか」

「兄ちゃん、ほんまに頑丈やな! ちゃんと人間なん!?」


 返事の代わりに、手持ちの水を口に含む。腰に下げた水筒の中身はまだ少し余裕があった。


「これを?」

「回すんや! 右と左で二択やで!」


 チップのデーモンに案内されるがまま辿り着いた場所には、ただ半ば埋めれている石板だけがあった。大きさは地表部分で高さ2m、幅1mほどで、表面には読めない文字と、左右に回すことができる金属の円盤がはめ込まれてある。

 ここまでの道のりで、エシュもルールは把握している。


「選択の基準は?」

「右が『物量』、左が『巨体』。兄ちゃんの腕っぷしをするパート! して力出あきまへんか!?」

「「はっはっはっはっはっは!」」

「具体性が欠片もないな⋯⋯⋯⋯運命の交叉路に至れ!」


 エシュは躊躇わずに右に回した。右手、運命のタリスマン。『右』という方向は、エシュにとっては運命の象徴だった。判断材料が曖昧な中、傭兵の危機感はどちらにも同等の脅威を受け取っている。勝負を賭けるのであれば、己が運命を託せる方角を。

 石板を回した直後、大量のミイラが砂漠から湧き出てきた。削り細った骨と腐り落ちた肉と皮。その身を包帯でグルグル巻きに包み、手には青銅でできた剣や槍などで武装している。


「デザート=ウォーリアーズ、合計五百体のミイラ戦士たち。こやつら全て倒すんは中々骨なんやないか?」

「「ミイラだけに」」


 エシュが鋼鉄の棍を引き抜いた。力任せに振り抜いて手近なミイラ戦士どもを一掃する。

 衝激波。軽い肉体が紙切れのように吹き飛んだ。


「んお!?」


 妙な叫び声を上げるチップには耳を貸さない。代わりに、吹っ飛ぶミイラの一つを手繰り寄せ、青銅の剣を毟り取る。奥を見据える。錫杖を持つあのミイラはどこか特別だった。しかし、エシュが投擲した剣が頭部を砕くと二度と動かなくなった。


「――――はっ」


 ミイラ戦士どもが次々と雪崩れ込んでくる。が、結果はどれも同じだ。鋼鉄の棍で軒並み弾き飛ばされ、奪われた武器で頭部を破壊される。

 戦略も戦術もない亡者の群れと分かってからは、まさに蹂躙だった。五百体もの数を仕留めるには数十分ほど掛かったが、傭兵の肉体には傷一つない。


「ははぁ〜ん、さすがはトリックスター。噂に違わぬ化け物っぷりやな⋯⋯」

「そりゃどうも」


 軽口を叩きながら、エシュはファラオっぽいミイラが持っていた錫杖だけ回収する。これだけはエシュが扱ってもそれなりに耐えられる強度を有していた。

  エシュは『物量の蟻地獄』を進む。

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