第四問『寿命』

 また、真っ白な部屋。

 エシュの首が斜めにかしぐ。自然には有り得ない配色ばかりで気持ちが落ち着かないのかも知れない。そして、それだけはなく。


「寒い」

「暑いで、兄ちゃん!」


 チップを右手から左手に移す。


「寒いで、兄ちゃん!」


 チップのデーモンは出鱈目を言っているわけでは無かった。エシュにもそう感じる。身体の右半分が暑さを感じ、左半分が寒さを感じている。自分の感覚が正常であることを理解したエシュは首の横をさする。


「……どちらかを潜れ、と?」

「せやな!」


 今度のドアは部屋の両側にあった。金属製。潜った先の気候は分かりやすい。どちらがより過酷で、どちらがよりなのか。

 エシュは自分の格好を見下ろす。麻の布を巻き付けたような質素なよそよい。屈強な肉体であればこそどちらでも耐えられる目算はあったが、だからこそ油断を排する。


「……行くか」


 過酷な環境を進むためには、尋常では無い体力が求められる。この場で立ち往生する時間は少しでも減らした方が良い。


「ええんか? その先は砂漠、暑い地獄の更新やで!」

「「はっはっはっはっはっは!」」

「良い感じに身体が冷えた。ありがとう」

「ッ!?」


 エシュは『砂漠のドア』を開く。

 触るだけで火傷しそうに熱せられたドアを、なんでもなさそうに。

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