第二問『入口』
意外と狭い、が傭兵の感想だった。全面真っ白な内装、目がまだ慣れないが、恐らく直方体の間取り。
そしてその中央、真っ白なテーブルの上に唯一色がついたもの。
「よぅ、兄ちゃん! こっちやこっち!」
なんか喋った。しかもやたらフレンドリーだ。
テーブルの上にあったのは、直径4cmほどのコイン。片面に目玉が、反対側には牙の生えた口が描かれており、平面ながら本物のように動いている。
「オイちゃんはチップのデーモンや! この迷宮の道連れになるさかい、一緒に頑張ろな!」
エシュはコインを引っ繰り返したり、横から厚みを覗き込んだりしている。上下に振って、擦って、回して。ひとしきり色々試したのだろうか、首を斜めに傾げる。
「⋯⋯そろそろ進めてもええか?」
「⋯⋯ああ」
そこはかとなく胡散臭いが、胡散臭さだけなら自分も同等という自覚があった。理解を待っては致命に至る。ここで解らないことにいつまでも拘泥しても仕方が無い。
チップの悪魔とやらが迷宮のルールを説明してくれる。時折挟む親父ギャグに反応してあげないと説明が進まないのが厄介だった。最後に願いの宣言を求められたので、エシュは報酬の金額をそのまま告げる。四度も確認された。
「ルールは以上や! とにかく、兄ちゃんは迷宮の最深部まで行ってくれればええんや。そしたらオイちゃんのお仕事も終わりやしね。どの道も運次第やし、せーぜー気楽に行こや! 気ラックだけにな!」
「「はっはっはっはっは!」」
「んで、兄ちゃんの答えはどっちなん?」
エシュは前方を見据える。ドアが二つ。
片方は『宝石のドア』。キラキラとした結晶でできている。
もう片方は『鋼鉄のドア』。鈍い輝きの鉄でできている。
エシュはしばらく、どちらのドアにも右手を当てた。さっきまで喧しいぐらいの喋り調子だったチップも沈黙したままだ。選択の邪魔になるようなことはしないらしい。
「こっちだ」
エシュは『宝石のドア』を選んだ。
「理由を聞いてもええか?」
「何かを感じた」
鋼鉄の棍で、もう片方を指す。
「そちらからは何も感じない」
「感じたっちゅうんは、危ないことちゃうん?」
ふっ、と傭兵が笑った。
「危機感はどちらからも。だから俺の感覚が機能する方を選ぶ。対処できる道が広がるからな」
そう言って、エシュは『宝石のドア』を開いた。
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