第11話 初恋でした
最寄り駅に到着すると、一目散に電車を降りた。
同じ下車の人達の先頭集団の流れに乗り、ホームから改札へと続く階段へと向かう。
ふと、電車を見てしまった。
振り返った電車の窓越しに、まさかの彼と目が合う。
こちらに、気づいてくれた。
嬉しいのに辛い。
彼は少し口角を上げて、軽く会釈してくれた。
フリーズする私。
彼の横に居る彼女が、彼の様子を見て私に視線を移す。
彼女とも目が合う。
私は目一杯口角を上げた。
ニコッと笑った。
彼女も少し笑って会釈してくれた。
発車合図と共に電車が動き出す。
寄り添った二人が、徐々にスピードを上げて向こうへと消えていく。
階段途中で立ち止まった私に、誰かが咳払いをした。
邪魔になっていることに気付いて、私は前を向いて歩き出す。
だけど、足が重くて思うように進まない。
そんな私を、人の流れは避けていく。
暫くすると、私は一人ホームから改札に上がる階段の途中で佇んでいた。
人の流れが去った改札への階段。
ただ一人、佇む。
雰囲気の良い二人だった。
今まで恋を知らなかった私が、いつも憧れていた恋人関係の雰囲気。
友達カップルを見て、憧れたことはあった。
いつも、いいなって思いながら幸せな気持ちになった。
だけど、憧れを感じたのに、初めて悲しかった。
胸が締め付けられた。
きっと、これが恋をするってことなんだ。
なんて切ないんだろう。
なんて儚いんだろう。
なんて…苦いんだろう。
喉の奥が熱くなって、鼻の奥が痛かった。
下を向くと、階段コンクリートに水滴のような跡が出来た。
私、何泣いてるんだろう。
恋は片方だけの想いではどうにもならない。
頭ではわかっていたのに。
初めてだったから。
伝えてみたかった。
ちゃんと、伝えたかった。
空中に浮いてしまったような私の恋心は行き場をなくしたまま、深く私の心に刻まれる。
明日、ユキとマミに聞いてもらおう。
散ってしまった恋の話をしよう。
今はただ、この気持ちを素直に受け入れる。
手の甲で涙を拭い、エイッと足を上げて前に進む。
自分一人で始まって完結してしまったけれど、これは私の初恋だった。
22分間で恋を進める方法は 佳月まる @siromaru-2022
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