第9話 まさかの帰りの22分
「王子様みたいなヒーローっているんだね…」
実習の授業の後、片付けをしながら今朝の出来事をユキやマミに話した。
ホウキやチリトリ、ゴミ袋を持ってそれぞれ実習の後の毛を片付ける。
「いや、根本的な解決はしてないからね」
ユキがチリトリで毛を集めながら言い、
「その変態おっさん、毎日一緒なの?」
マミもその毛をゴミ袋に詰めながら私に問い掛けた。
「いや、おっさんの話じゃなくて」
私はホウキの手を止めて、ヒロくんの話に戻そうとする。
「満員電車の中の痴漢行為とか許せないよね。やり口が卑怯」
「キモいよね。でもさ、結構あるくない?」
「あるある」
「私、リュック前にして絶対壁かドアを後ろにする」
「あぁ アンタ胸デカいもんね」
ユキとマミが痴漢話を展開していく。
「そこじゃないから、私がしたい話は」
私が話を戻そうとすると、二人はしゃがみながら作業していた手を止めて立ち上がった。
「それで、ホームで呼び止めてお礼言ってどうしたって?」
ユキが私に問い掛ける。
あの後、ヒロくんは痴漢行為のおじさんは毎日見る顔じゃないとかそんな話をしてくれて、私が毎日同じ車両に乗っていることは知っている感じで、
『いつも同じ電車だよね?もし、また困ったことあったら声掛けてくれたらいいよ』
と、優しい言葉を掛けてくれた。
「なのに本人に名前も連絡先も聞かなかったんだ?」
マミは呆れたように私に聞いてきた。
「絶好のチャンスだったのに、なんで聞かなかったの?」
ユキも詰めるように聞いてくる。
「いや、それは…」
痴漢に遭った後に、衝動的にお礼を言わなきゃと思ってホームに出た。
それ以上でもそれ以下でもなくて、話してみたら想像してた以上に優しくて素敵だった。
それに圧倒されて何も考えられなかった。
「頭が真っ白になっちゃって」
お礼を言うだけで精一杯だった。
「私、ダメダメだよね」
ホウキを抱いて脱力した。
そんな私の様子に、
「でもまぁ、お互いの存在は認識したわけだから、毎日挨拶は出来る仲になったんじゃない?」
「きっかけが痴漢ってのが不本意だけど、まぁ、そうだよね。ここからどんどん行っちゃえ!」
二人に背中を押された。
どんどん行っちゃえって、何がどう?
わからないままだけど、会ったら挨拶は出来る。
そう思っただけで、何だか嬉しかった。
明日が楽しみで仕方ない。
そんな風に思っていたら、学校の帰りに奇跡が起きた。
いつもは行きの電車でしか会えないのに、帰りのホームにヒロくんの姿を見つけたのだ。
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