第6話 恋するダンボ

翌日の金曜日、彼は電車に乗っていなかった。


意気込んで行ったのに、会えずに呆然として22分間を過ごした。

週末は月曜日が来るのが待ち遠しくて、早く来てほしいような、でも金曜日みたいに会えなかったらどうしようと不安になったりと感情が忙しかった。


迎えた月曜日。

ホームの列の先頭で電車を出迎えた。

まだ電車が停車する前に、彼の姿を窓越しに見つける。

今日は居た!

意気込んで電車に乗り込むも、やはり後ろからの押し上げに苦戦する。

何とか彼の近くをと必死に横に入り込んだ。

扉が閉まり、電車は発車する。

彼の真横のナイスポジション。

緊張しながらチラッと横を見ると、向こうもこちらに視線を落としてくれていた。

今こそお礼を伝えよう!そう思った時だった。

「聞いてはいたけど、マジヤバイな。毎朝これ?」

と声がした。

「そう。だからうちは止めとけって言ったの」

そう答えたのは彼だった。

彼の斜め前につり革を必死に握って立つ同い年くらいの男性が居た。

「いや、でも、ヒロの家に泊まってみたかったんだよ」

その男性がそう話すと、彼は小さく笑った。

私は頭の中で色々整理する。

斜め前の男性は恐らく彼の友人。

そして友人は彼の家に昨晩泊まった。

そしてそして、彼の名前はヒロ!

今、お礼を言える状況ではないと判断し、耳はダンボ。

「後何分?」

「20分くらい」

「マジか。私鉄ヤバいな」

「この後の環状線はまだマシだから」

その会話に、彼はこの後環状線に乗り換えることが判明した。

なんて便利な友人君なんだ。

もっと話して欲しい。

私は耳をダンボにしたまま彼らの会話を待つも、満員電車の中だからなのかその後ほぼ会話がない状態で間もなく駅。

車内アナウンスのタイミングで、やっとまた話し出してくれた。

「大丈夫?」

彼の大丈夫?に反応しそうになるも、その言葉は私ではなく友人君に向けられたもの。

「乗り切った。1限目は爆睡だわ」

友人君が冗談を言うと彼は笑った。

駅に到着すると二人は下車の波に乗ってホームへと出て行った。


少し空いた車内。

何一つ目的は達成されていないのに、気持ちはハッピーだった。





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