第4話 24時間ぶりの再会

翌朝、私はいつもより早くホームに到着して、いつもの列の先頭に立っていた。

恋をしたら早起きになるのだろうか。

目覚まし時計なしで起きることが出来た。

頭のてっぺんから足の先まで、整えてきた。

昨日はただ纏めていた髪も、ちゃんと巻いてお団子ヘアにしてきた。

同じ失敗をしないように、今日はデニムパンツを履いて、キャミソールにカーディガン。


ホームに電車が入ってくるアナウンスが流れて、私は電車が来る方向を見た。

先に電車の先頭車両が見える。

息を飲んだ。

電車はスピードを落としながらホームに入ってきて、いつもの位置で停車した。


すぐ、見つけた。

扉が開く前に、その扉の窓の向こうにある彼の姿を。

一気に鼓動が早くなる。

扉が開いた瞬間、目が合った。

咄嗟に小さく会釈すると、向こうも会釈してくれた。

ちゃんと用意してきた言葉がある。

『昨日は助けて頂いてありがとうございました』

そう言いたいのに、言葉を発する余裕もなく、後ろから押されるようにして電車に乗り込むかたちになる。

私の意思に関係なく、ギュウギュウ後ろから人に押されまくる。

いつも最後尾からの乗車だったから、最前列の人がこんな事になってるなんて…。

とにかく真ん中で22分間の立ち乗車は耐えられないと思い、出来るだけ横に避けて後ろから来る人を避けた。

僅か数十秒の乗車劇。

扉が閉まり、電車が動き出した時に私は気付いた。

目の前に彼の背中があることを。

近い。近過ぎる。

勝手に一人で緊張して、鼓動が収まらない。

24時間ぶりの再会。

さっき目が合った。

会釈したらそれに返してくれた。

なぜお礼を言えなかったんだと一人反省会。

色んな感情が忙しい。


数分して落ち着いた私は彼の背中を見上げ、私よりも20センチくらい身長が高いのかなと思った。

デニムパンツに入れているスマホが振動した気がした。

LINEかもしれない。

何度か無規則に振動するからだ。

肩掛け鞄の持ち手を肩に掛けて握りしめていた手を離し、デニムパンツの後ろポケットからスマホを出そうと試みる。

ゴゾゴソ動きながら、身動きの取れない車内で何とか取ろうとするのだけど、横のサラリーマンのおじさんにチラッと見られてしまい、背中の彼も私が動くからか後ろを気にする素振りが見えた。

その瞬間に、私はスマホを出すことを諦めた。

彼に痴漢に間違われたらイヤだ。

そんな乙女心が、私を大人しくさせた。

スマホよりも、この後のことを考えよう。

彼は次の駅で降りる。

彼が降りる扉は彼の背中側。

つまり、降りる時に絶対こちらを向く。

私はそう想定して、何度も昨日のお礼を言う練習を頭の中で繰り返した。

少し下を向くと、前頭部が彼の背中に当たるから、真っ直ぐに彼の背中を一点に見つめて。


そして22分間が過ぎ、その時はやってきた。

想定した通りにはいかず、人の流れに乗って私を背に外側回りで彼は降りて行ってしまった。

内側回りでなかった為、彼がこちらを向くことはなく降りて行ってしまった。


24時間ぶりの再会は、ほぼ背中だけを見つめた再会だった。


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