第3話 人生初めての恋バナの中心
私の話を聞き終えた二人。
「毎日満員電車で一緒の人ってこと?」
ユキが私に質問した。
「わからない。今まで意識したことなかったから」
居たような気もするけど、自信はない。
「あっ、でもホームには居ないから私よりも前の駅で乗ってるんだと思う!」
それは自信がある。
私の前に並んでいた人の中に彼は居なかった。
「次の駅で降りたってことは、環状線乗り換えたってことだよね?」
「環状線沿線の大学って言ったら、教育大?市大もあるよ」
「専門学校も半端ないくらいあるよ」
「待って。地下地鉄に乗り換えたかもよ?」
二人はスマホを出して検索しながらあぁでもないこうでもないと話した。
「いや、でも、たまたま乗り合わせた人とかだと下手したらもう一生会えないよ?」
現実的な話をするマミの言葉に、絶望を感じる私。
「七桜、今のはサイアクの場合の話だから。大丈夫!多分毎朝同じ電車に乗ってたんだよ」
ユキがフォローしてくれる。
「授業はじめますよ〜」
後方の扉から、飼育管理の授業の先生が入ってきた。
一先ず恋バナは中断。
私は鞄からテキストとノート、そして筆記用具を急いで出した。
鞄を足元に仕舞うとき、スカートの裾が見えた。
彼を思い出した。
こんな気持ち初めてで、自分でも驚いた。
小学校3年生位から、友だちの間で恋バナがはじまった。
何組のなんとか君がカッコいいとか、両思いだとか、そんな話だった記憶がある。
中学に入ると、誰々と誰々が付き合ってる話や告白して上手くいったとかいかなかったとかの話になった。
高校に入ると、初キスだ初体験だと話はより高度になっていった。
どの時も、私はいつも聞き役だった。
七桜は誰かを好きじゃないのかと聞かれて、合わせるつもりでクラスで人気の男のコの名前を言ったりしたことはあったけれど、決して恋してたわけじゃなかった。
なので、自分は恋多き女でも無ければ、惚れやすい体質でもない。
恋バナは大好物だけど、私の経験値は極めて低い。
昼休みになっても、私の初めての恋を二人は掘り下げてくれた。
「どんな顔?」
昼ごはんをカフェテリアのカウンターに座って食べながら聴き取りはスタート。
私は『引っ張ろうか?』と問い掛けられて、見上げた時の彼の顔を思い出してドキドキする。
「赤くなってないで答えなさいよ」
ユキに肩を小突かれる。
サンドイッチを手に持ったまま、
「割と目鼻立ちのハッキリした感じ。目が印象的だったかも…」
上手に表現できない。
「男前ってこと?」
マミが興味津々に私を覗き込む。
「カッコよかった!」
自信満々に答えた。
「でもさ、大概惚れた相手は男前に見えちゃうよね」
ユキがそう言って笑う。
「本当にカッコよかった!」
私はもう一度主張する。
「カッコよかったらさ、毎日一緒だったら何となく記憶にない?」
「そんな余裕ないくらい満員電車なんだって」
人間観察出来るほどの空間はない。
154センチと身長低めな私は、毎朝必死に最後に乗り込んで扉側で耐えていた。
ただひたすら苦行の22分間。
「芸能人で言ったら誰似?」
マミの問い掛けに、頭の中で色んな芸能人を引き出して考える。
そして何人目かでピンときた。
「俳優の山田裕貴くん!」
閃いたとばかりに発表すると、二人はシラッとした目で私を見ていた。
「絶対フィルターかかってる」
「有り得ない。いくら満員電車でも山田裕貴レベルは目に止まるよ」
口々に言われた。
「明日会ったら山田裕貴じゃないよ」
ユキがそう言うと二人は大笑いした。
明日も、会えるのだろうか。
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