第3話 今と昔のサイゼリヤ
「「いただきま~す」」
頼んだものがあらかた出揃ったところで、二人で手を合わせる。
なんかこうしていると昔に戻ったみたいで嬉しかった。
「うーん、美味しいね!」
彼女がエビをサラダを頬張って言う。
「やっぱサイゼでしょ」
俺もエビとレタスのハーモニーを感じながら同意した。
このサラダ。
ただのサラダと侮るなかれ。
新鮮な野菜に美味しそうなエビ。まさしく完璧なサラダ。毎日食べても飽きないであろう味つけ。
さすがとしか言いようがない。
昔からずっとメニューを飾り続けてきた古参勢の一つだ。美味しいに決まってる。
「飲み物取ってくる」
ゆめはがそう言い残して席を立つ。
サイゼの魅力の一つであるドリンクバー。
ファミレスならどこでも同じだろというのはごもっともだが、冷たいものから温かいもの。
定番を幅広く抑えたバリエーションは、目立たないにしても陰の実力者に変わりない。
「よいしょっと」
俺は彼女が席を立っている間にピザを切る。
サイゼは自分で刃のついたコロコロのやつで切れるのだ。
ひと手間面倒くさいかもしれないが、そのひと手間を加えることで、美味しさが増すってものだ。
少し曲がって、お前のほうが大きいだろと言い合いをするのも良さの一つである。
「なかなかにうまくできたのでは?」
ピザの出来栄えを自画自賛をして、事前に取ってきていたアイスティーを口に含む。
うん、うまい。
いつもの味に懐かしさを感じたところで、心のなかに黒いものが出てくる。
サイゼリヤで良かったのだろうか。
久しぶりに異性の幼馴染を誘うのにここで良かったのだろうか。
世間が言っているようにやはり安い男と思われてるのではないか。
彼女はああ言っていたが、心のなかでは期待外れだと肩を落としているのではないか。
そんな人ではないことを知っているし、何よりサイゼリヤは素晴らしいのだけど……何処か不安になってしまう。
クソ、俺のサイゼリヤへの愛はこの程度なのかよ……。
そんなことを思ってしまう自分にムカついて顔を上げ……俺は息を止めた。
いや、止まってしまったといったほうが正しいかもしれない。
俺の対面。テーブルを挟んで向こう側。
いつの間にか戻ってきていた彼女が――――
「ん〜ッ!!!」
――――昔と何も変わらない。無邪気に輝く、太陽のような笑みを浮かべていたから。
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