第483話 心を刺し貫く痛み、霞みゆく世界
激しくなっていった黒き風に、バギットとグレオは吹き飛ばされていった。
暴虐の嵐噴き上げるその中心点に残るは、胸を貫かれた白髪の老体と、
「忌々しい目付きをしやがって」
ゴミの様にそこらに投げ捨てられたダルフ。胸に風穴を開けて絶命すると、彼の全身を不死の光が包み込んで再生させていった。
「なんだ……お前達人間の見せる、その
鴉紋の胸中にて重なった、フゥド・ロードシャインによる
いずれもロードシャインの系譜によって放たれたものだが、それは人類による“強き意志”であると感じた。
「その目は……」
圧倒的なる暴力に敗北を刻み付けた。歯向かう者は身も心も暴虐に支配した。
――そう思っていた……
おそらくは
「だがそれでどうする……力無き者の声など聞こえねぇ」
「……?」
「聞こえねぇンダ――ッッ!!」
突如と憤激した鴉紋が、恐ろしい波動を打ち上げながらダルフを見下していく。そこに宿った激しき情念は、常軌を逸した執念となってダルフに向けられていく――!
「フ……ぅう――っ!」
ダルフを襲う、冷たく陰惨なる恐怖の
怯え竦むしか無い観衆は皆縮み上がり、その肝を急速に冷やして蒼白となっていく。
「瞳を……開け」
「あ?」
その
「恐ろしい時程……っ」
――やはり白熱した黄金の視線を鴉紋へと向けるのだった。
「その正体を見極めろッッ!!」
「ッ――」
やせ衰えた体躯にコケた頬、深く刻まれたシワに白髪が流れる。背に滾っていた雷火はいつしか二枚ともなるが、そこに宿る灼熱と正義の眼光は未だ明日を見据えているかの様だった。
「てめぇ……っ」
強く歯噛みした鴉紋のこめかみが膨らみ、憤怒した眉根が吊り上がる。わなわなと震えたその全身が、怒りに塗り染められながら業火の闇を吹き荒らす――!
「分からねぇのかよ、そんなひ弱な体に落ちぶれてもまだ……!」
「……く……っ」
悪意の波動に耐え忍んだダルフが、フランベルジュの切っ先を一点刺し貫く姿勢で構える。
悠然と歩み出してくる鴉紋に、ダルフが正義の面相を上げた……その時の事だった。
「ハ――――っ」
「――――ッ」
彼等が同時に知覚したのは、修道院にて死闘を繰り広げる仲間達の“気”――
「ポック……!」
「フゥド……なのか?」
尋常じゃない表情で凍り付いた二人……頭を抱え込んだダルフと、顔に手をやった鴉紋は同時に歩みを止めると……
「お前……ッ」
「なんで……どうして……フゥドっ」
――走る確かなる感覚が、天魔であるルシルのみならず、ダルフにまで知覚されているのは何故だろうか……
それは彼が、
だが今は――!
「ぁ…………」
「――ッッ!!」
襲い来る
「フロン……ス……?」
「……ピーター? なんで、なん……っうわぁぁあ!!」
ダルフの震えた頬に涙が伝う……膝を落とした鴉紋が口元を喘がせる。
何よりも激烈なる痛みが――二人の心に針を突き立てる!
「まて……お前は……生き残って俺と、二人で幸せに……なるとっ」
「必ず戻ると……俺の胸に帰って来るって……言った……よな……」
「ヤメロ……お前だけは……オマエだけはッ!!」
「待ってくれ……待て! 逝かないでくれリオ――――」
天を仰いだまま、糸の切れた様に言葉を失った両者が……
「セイ…………」
「――――……ぁぁ、ぁぁあ……」
瞬きも忘れて風に揺れるまつ毛……静かに時を止めていった二人の内情は、実に――
「あぁ……ぁぁぁあ、あ――ッッ」
「が……! ぁ……ッあぁあ゛――ッッ」
極めて、そう……強烈に――ッ!!
「あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛――――――」
「うぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁあああああぁあああぁあああァァァァァアアァァアアァァァァァァァァアア――――――」
「ウァァァァァアッギィィイァァァアァァアアァァアアァアア゛アアアァアアアアアァ゛アアアアアァアアアアアアアァアアアアアアアアアァアアアアアアア゛――――」
「わァァァアァアアア゛アアアアァアアアアアアアアアァアアアァァァアァアアア゛アアアアァアアアアアアアアアァアアアアアアアア゛アァアアアぁぁあぁぁああああ――――」
“
生きていく理由が、戦い続ける理由が、
目指す世界の情景が見えなくなって――
「ァァアアッ全部貴様のせいだ、キサマのせいだアモォオオオオオオン――ッッ!!!」
「黙れ……ッお前達が、オマエタチさえいなければ俺達は……ッぁぁぁあダルフゥゥウウウウ――ッッ!!!」
それでも彼等は――――
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