第473話 背負いし者達の血の記憶


「神の作りし庭園に、土足で踏み込む愚か者ぉ。Shit、Shit……Holly shit!! 今、主の御名の元に……断罪執行、楽園追放……慈悲も無く、ただロンギヌスの槍の様に、神の胸を貫いた、あの聖槍の様ォオオにッッ!!」


 フゥドが懐より取り出した布――その聖骸布せいがいふに一度包まれた銀の大槌が、布を吹き飛ばす神聖の坂巻きと共に血の紅蓮に代わっていき始める。


「な……な、な」


 フゥドの手首からは血が吹き出し、聖者の血となって永き螺旋の血脈へと続く。


「なな! なぁ――ッ!!」


 過去吸い上げて来た、歴代の神罰代行人達の血の大河が十字架より吹き荒れる――!

 紅蓮の大槌に亀裂が走り、クロスした十字の部分が激流に回転する。血の風車、回転する神聖が血をかき混ぜて渦を巻く!!


「なぁんスカそれッ!!」


 流石に驚嘆した様子のポックと向かい合いながら、フゥドは白い歯を見せて激情する――背後に滾りし無数の先祖達と共に!


血の聖ブラッドホーリー十字クロスゥ――ッッ!!」


 その悲願を遂げる為に受け継いで来た、代行人達の血の記憶を呼び醒まし――吠えるッッ!!


「『威赫流呀イカルガ』ァァァアアァァァァッッ!!!」


 四枚のブレードが苛烈に回転して鈍い音を立てる。まるでチェーンソーかの様に強く振動して音を鳴らす聖十字より、聖者達の真紅が螺旋となって吹き荒れた――!!





 ――いくぞぉぉフゥドォォ、気合入れろぉぉ……奴らに神の鉄槌ヲォオオオオッッ






「父ちゃ――――!!」


 共に聖十字を握る父の温もりを確かに、フゥドのレザーグローブの甲で赤き刻印が沸騰する様な音を立てて発光した――!


「やってやるよぉぉ……Shit!!! 我等神罰代行人の悲願をっ神の鉄槌をぉおおオッ、こぉんのぉっユダァァァアァア!!!」


 今覚醒する、神罰代行人としての波動――!


「力貸して欲しいっす、クレイス……みんな」


 だが、だが!! ――だがしかしッ!!


「血の記憶に支えられてんのがお前だけだと思ったら大間違いっすよ……憎悪にまみれたこの血液が、大地に沈んだ無念の魂が、コロッセオに眠った数え切れないだけの“家族”の想いが――俺にもッッ!!」


 ポックの全身より赤き妖気が燃え上がる!

 そしてその手に現れるは、グラディエーター達の悲痛の血潮を吸い上げた“朱槍”!!


「『反骨の槍』……」


 彼等の強いられて来た、余りにも長く苦しい陰惨なる歴史……その血に宿った数多の戦士達の“気骨”が、人を憎むあの激情が、仲間達の全霊が――!!


「――――ッッ“破天”ッ!!」


 パンプアップを続ける、巨大なるその朱槍に込められている――ッ!!





 ――踏ん張れよポック、我等グラディエーターの気骨が、人間などに遅れを取る訳が無いのだからッ

 ――ポック!

 ――行こうぜポック!





「ぁ……みんな……っ」


 朱槍からほとばしる血脈の霧に見た幻影……

 信じられないものでも目の当たりにしたかの様に一瞬放心したポックであったが、その気迫はすぐにと滾って、赤目を強烈なまでに照り輝かせた。


 そして二人の男は因縁へと走り出す――!


「ユゥゥウウダァァァアアァア!!!!!」

「この腐れ人間ガァァアァアァアアア!!!!」


 互いに背負いし血の紅蓮が、決して譲れぬと牙を剥き合う――!

 最期に託した想いを連ね、二人のは極厚となったプライドを重ね合う――


「クゥゥウウアァアアァアアアアアッッ!!!」

「ラァァァアアアァァァァアアァッッッ!!!」


 迫り合った紅き閃光が衝突する――!!

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