第464話 聖遺物の再燃
魔王を筆頭にした“魔族”の群れが、荘厳なる修道院を破壊しながら進軍する。
大階段を上り、2階にあたる二重の円柱の並んだ回廊を覗くと、鴉紋は暗がりとなったそこに
「フゥぅぅ……フゥゥウ……!!」
割れた
「敵はミハイルのみ、奴を葬れば全てが終わる。雑魚に構ってる時間はねぇ、俺達は別ルートから行く。セイル、フロンス、ポック、虫ケラ共の掃除を頼む」
「わかったよ鴉紋、きっと無事でいてね、きっとだよ!」
「鴉紋様、そいつらと一緒に絶対ミハイルをブッ飛ばして来てくださいっす!」
「……ともすると、私達の相手は」
フロンスの視線が闇に佇んだ男へと注がれると、その男は激情のままに闇より姿を現した。
「Holy fucking shit 何処に行きやがるこの腰抜けが……ッ俺と闘え!」
黒きレザーグローブに刻まれた十字架の刻印、そこより真紅の発光を瞬かせる男は、先程鴉紋の手でくりぬかれた右目からの出血を抑える事もせずに拳を構えていった。
「折角拾ったその命、もう捨てに来たのか
「終夜鴉紋……異界の蛇がっ! 79代ヘルヴィム・ロードシャインとして、俺は貴様に天罰を下しに来たッ……この
「早速父の真似事か? だが、貴様にはまだ
鴉紋の手によって落ちた巨星――父親であるヘルヴィム・ロードシャインの仇討ちと、神罰代行人としての使命によって復讐の鬼と化したフゥドは、なんと豪胆にも単身で鴉紋達を待ち受けていたのだった。
「待ちやがれこのfuckin蛇ィっ!」
「気迫だけは褒めてやる、だが――」
全てを無視して鴉紋へと飛び掛ろうとしたフゥドの拳が、緑色の風を纏うグラディウスの双剣に止められていた。
「――ンだテメェええ、このShitがぁあ!!」
「お前には力が足りない、フゥド・ロードシャイン……」
「コンのぉおおおッ!!」
「何処見てるっすかぁ? お前の相手は――」
双剣より溢れ出した風の刃を受け、フゥドは呻きながらその場を飛び退く。
「俺っすよ……」
散っていった仲間達の意志を背負い、ポックは赤目を光らせながら回廊を滅茶苦茶に切り刻み始めた。
「ロチアートぉ……この家畜野郎が、今すぐ潰してやるよっ!!」
「俺達はもう、家畜でも奴隷でも無いっすよ……人間!」
激しい戦闘を目前に、鴉紋は3階へと続く大階段を1500の兵と共に上がっていく。
「頼んだぞお前達、死ぬなよ」
「こんなん屁でも無いっすよぉ!」
「鴉紋さんこそ! 私達の野望は目前、必ず勝ってください!」
「雑魚は私達が掃討するわ、だから鴉紋は思いっきりミハイルを殺って来て!」
微笑みながら振り返った三人を2階に残し、鴉紋は仲間達を引き連れて色濃い因縁の気配がする最上階を目指していこうとするが、そこでピタリと歩みを止める。
「セイル」
「ん……?」
何処か楽しそうに、それでいて
「待ってる、俺達の未来で」
「え、えっへへへっ……うん、絶対行く、絶対無事で貴方に会いに行く」
はにかむ彼女……言うまでもない二人の熱き
「絶対……死なないよ、貴方と幸せに生きたいから」
肌を切り裂く旋風と、紅き血色の閃光が激しくぶつかり合いながら、みるみると回廊を崩壊させていく。
――すると砂煙より這い出して来た鬼の紫眼が、ポックへと急接近していた。
「
レザーグローブより発光する赤き拳を双剣に受けたポック、だがしかし、流れる様なフゥドの連撃はそれでは止まらなかった。
「
「うぅアッ!!」
「
「グ――――っ!」
続け様の“聖遺物”による打突を横腹と胸に打ち込まれたポックが、壁へとめり込みながら血を吐いた。
「ポック!? ……っオマエ!!」
「二人がかりで始末しましょうか、セイルさん」
「かぁぁアッ!! 邪魔だ邪魔だ邪魔だshitッ!!」
崩落してくる天井をステップしながら躱すフゥドが、セイルとフロンスへと差し迫ったその時――
「『
「ぎぃア――ッ!!」
振り放たれたポックの双剣より、乱気流が溢れ出してフゥドをすくい上げていた。
「ウザってぇええッ!! 『
爆裂する神聖の瞬き――中空より無理矢理に繰り出されたフゥドの鉄拳が、風を割ってポックへと降り落ちていく!
「『緑旋風――斬』!!」
同時に振り下ろした双剣より、緑色の竜巻が発生してフゥドを舞い上げた――
「ぬぅあ――がッ!!」
――のみならず、彼の体は激しい旋風に切り刻まれながら吹き飛んでいった。
驚異を押し返したグラディエーターに、セイルとフロンスが振り返る。
「ポック!」
「無事なのですか?」
「……二人は先に行って欲しいっす」
二人の背を押し出そうとするポックの表情には、死んでいったグラディエーター達全ての気迫が乗せられているかの様に、激しい闘志に満ち溢れていた。
後方へと吹き飛ばされていたフゥドがくるりと宙で反転し、打ち付けられる筈であった壁を蹴り出して三人の元へと走り出して来た。
「
力強い足音と共に駆けるフゥドの首からは、父より託されたロザリオが垂れていた。
フゥドはそれを握り締めて革紐を引き千切ると、その手に巨大な聖十字架の大槌を振り上げる――
「神罰代行人の名にかけて、テメェら
鬼神と化した殺意の眼光を受け、ポックは一人、前へと踏み出しながらセイルとフロンスへと伝えていった。
「こいつは俺が止めるから、早く行って欲しいっす!」
「でもあいつ強いよすごく、前とは生まれ変わったみたいに、本当に死んじゃうかもしれない!」
「死なねぇッスよ! だって俺のこの胸には……」
立てた親指をトンと左胸に向け、口の端から血を垂らしたポックは振り返って笑う。
「
未だ不安げな表情を見せるセイルの体を、フロンスが抱え上げていた。
「ちょっと、フロンス!?」
「ここはポックさんに任せるのです。私達は鴉紋さんの野望の為、残党を少しでも減らさなくてはならないのですから!」
「ポック!」
「そういう事っすよ、早く行って欲しいっすセイルさん」
「死なないで下さいよポックさん! それでは!」
縋りつこうとするセイルと、拳を突き出したフロンスが奥へと消えていくのを眺めたポックは、照れ臭そうにしながら頭をポリポリと掻いて俯いていった。
「よそ見してんじゃねぇぞ
新たなる聖遺物を手に、ポックへと迫る脅威が聖十字を振り上げた時――
「あ〜あ……柄にも無い事言っちゃったす、逃げ出して〜」
――ポックもまた、その額を上げていた。
聖十字架による鉄槌が空を切り、その場に佇んでいた筈のポックの姿が風に乗って消えている――
「ア――――ッ!!?」
素っ頓狂な声を出したフゥドの頭上に、双剣の煌めきが見える――
「Shit――!!」
「お前はここで潰すッス――!!」
豪快に振り上げられて来た銀の大槌と、ポックの双剣が火花を散らす――
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