第456話 覇道を譲るな、例えソイツが何であろうと


「そんなのは……の意見だルシルフェル……っ!」

「持ち得るかどうかも己次第……その生涯を“運命”の一言に片付けるのも、切り拓くのも」

「あぁあぁああッふざけるなァァああ――!!」


 黒の螺旋が宙を切り裂き、桃色の神聖を桜花弁と共に吹き飛ばしていく。


「『仇桜あだざくら』ァァアッ!!」


 上空より再びに引き絞った光の御旗を鴉紋へと突き刺したジャンヌであったが――


「ハ――――!」


 標的の胸に刺さった鋭利が、黒き掌に引き抜かれていくのを知覚していた。


「テメェがどんな人生を見て来たのかは知らねぇ……」

「お前に……ッお前に何が分かる、私の背負った宿命のぉ!」

「何があって、神にそこまでの忠誠を誓ったのかも……」


 投げ出した御旗の切っ先へと、拳を合わせた鴉紋が――


「ぅぁぁあ――ッ!!?」


 “神聖”を濃縮した光の御旗を正面より割り砕いていく――!!


「だがなぁクソ女……運命に祝福される奴もいて」

「私は人類の行く末をッ未来を神に託されて――

コンナ所でぇ!!」


 薄紅の花弁坂巻きながら、御旗は神の御力を最大限まで出力して鴉紋を押し返そうと試みる。

 爆発した神々しさ……荘厳とも形容出来よう桃色の天輪の下で、桜の大樹は体内より“神聖”を暴発させて大翼を押し開いた……


 しかし――――ッ!!


「運命とやらに……っ足蹴にされる奴もいる!!」

「ナ……何をしても、コイツは……ぁぁ、ァァアアア!!!」


 あらゆる天災跳ね除けながら、鴉紋は進む。

 激烈に歯を喰い縛り、口元から滲む赤の液……

 前へ前へと……


 “運命”の元へと――――!!


「ソイツがぁ……ッ気に食わねぇんならァッ!!」

「覆せぬ筈だっ……主の采配さいはいは絶対だ、万物がひれ伏すしかない超越的なモノの筈だッ」

「己の信条にそいつが差し障るならァあ――ッ!!」

「――なぁぁああっっのにィィイイイいいいいぃぃ!!!!??」


 神を象徴する御旗砕かれ、主の御力の破片が空へと荒ぶ。喰い破るは、憤激する悪魔の拳――!

 膝震え、神に押し退けられそうになっても、

 ――“獄魔”はその道を譲らない!


「神の采配さいはいナド知ったコトかァあっ!!!」

「ヒグ――――っ……!??」


 たとえが偉大なるナニカであろうと、こうべを垂れて感謝を尽くすべき崇高であっても、ソレが彼のゆく道を阻むなら――!






「首猫掴んで引きずり下ろせ」



「…………ッヒィ!!!?」



 暗黒宿りし冥府の拳が赤黒い陽光より授けられると同時に、鴉紋は天空へと続く一本の道筋――桜纏う光の御旗を大地へと叩き付けていた。


「ヵ――――、――!!」


 桜の大樹は“象徴”を手放せず、神聖と共に地に激突している。

 その衝撃で岩山の頂点にそびえた修道院が揺れ動く程に、強烈なる一撃――!!


「………………あ…………」


 光明木端となって舞い飛ぶ桜花弁、残された数メートル程度の“象徴”を認め、目を白黒とさせたジャンヌ・ダルクは顎を震わせた。

 ひしゃげ折れた背の大輪、そよぐ力無き薄紅……そして真っ白になった相貌そうぼうで見上げる――


……」

「――――……っ」


 目前で拳骨振り上げる、血塗れの魔王を。

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