第424話 王の講釈
確かに受け止められた自らの棒術――ジンジンと痺れる己の手先を確かめながら、シャルルは眉をひそめてフロンスの心中に宿るギルリートへと問い掛けた。
「何故ロチアートの肩を持つのだ……貴様はゲブラーの天使の子、セフトを担う重大なる役目をミハイル様より任された筈の男だ」
「ハッ、セフト……ミハイル? 高潔なる俺は自らの意志で世に君臨していたのみ、そんな奴等は元よりどうでも良いのだ、俺にとっては丁度良い足掛かりであっただけの事」
「……っ」
「そしてお前、聞き捨てならん事を吐き捨てたな……この俺が下等生物に与した覚えなどあるはず無かろう、言葉を選べよ下郎めが」
緩やかにその指先を天へと示し、見下す様にしてシャルルを頭上より指し示すギルリート。
「全ては俺の選択のまま。世界とは、俺を中心に回っているべきなのだ」
「な……っ」
「俺は俺の意志で持ってここに居るのみ。家畜や貴様らなどどう野垂れ死のうが知らんが、一人残した
「友だと……フッフッフ、貴様には家畜の友が居るのかギルリートよ」
「そうだ、滑稽なるこの家畜は俺のお気に入りでな……ククッ世界がどうなってでも俺の側に置いておきたいのだ。身分や立場など関係が無い、全ては俺の愉悦の為、俺を中心として全てが赦される……それが王たる者の権利なのだ」
好き勝手に
「セフトへの反逆と受け取らせて貰うぞ」
「それがどうした、貴様は大王の癖に人の顔色を窺うのか」
「ぬかせ――!」
強烈に踏み込んだ足場を鳴らし、シャルルが眼前へと迫り来る中フロンスは声を上げていた。
「ちょ、ちょっとギルリートさん! 私の体で好き勝手言わないで下さいよ、シャルルさんが怒ってしまいましたよ!」
「久方振りだなフロンスよ……それにしても貴様のさっきの醜態は何だ、畜生の様に四つん這いとなって血肉を貪るなど、余りに悲惨過ぎて腹が捩れそうだったぞハッハッハ!」
「ぁあもう辞めてください! あの時はああするしか無く……て、うわぁー、シャルルさんがもうそこまでっ!」
代わる代わると口調を変えて一人芝居を続けるフロンスに、シャルルは容赦も無く金色の杖を振り払う――
「『水の鼓動――波紋』!」
シャルルの杖に合わさる様に、再び現れた暗黒の棒がそこにせめぎ合った。
「甘いぞ私の波紋は――武具を伝う!」
シャルルの振り抜いた一打が、その衝撃を波紋の様に伝う――
「甘いのはお前だ、辺境に住まう小さき王よ」
「ヌ――――っ!?」
フロンスの棒からも同じ様に波紋が伝い、ぶつかり合ったエネルギーに両者の得物が弾け飛んでいた。
「く……!」
鳩が豆鉄砲を食ったような表情で金色の杖を見下ろしたシャルルは、胸を張って不敵な口元を笑ませたギルリートを見上げていく。
「また、私の棒術を完全に受けきって――!?」
「それと、俺がここに居るのにはもう一つ理由がある」
敵の疑問になど答える素振りも見せず、顎を上げた
「この俺を差し置き
溢れる暗黒より創造した巨大な杖を握り、フロンスはシャルルと同じ構えを取って睨み合う。
「猿真似か……?
「ふぅん……知る訳が無いだろう、貴様の様な矮小国家の王の武術など」
「チッ……」
奇しくも同じ性質の杖を握り、同じ構えで相対する男をシャルルは冷ややかに凝視していく。フロンス――もといギルリートが答えた様にそれはシャルルを挑発するだけの猿真似に過ぎないのかも知れないが、事実二度に渡って大王の技は同性質の技に弾き返されている……
「……まぁいい、誰であろうと構わん」
聡明なるシャルルにしても理解に及べ無かった事実を前に、彼は開き直りながら構えを深くし、その得物に炎を纏わせた――
「我等が祖国に仇なす者は廃除する。それがクリッソンとの契りであり、弔いともなろう」
「
同じく構えを深くしていくフロンスに向け、シャルルは苛烈に眉を吊り上げていく。
「私の王としての在り方に指図をするな、私は誰よりも民を想い、国を想い……! 貴様の治めた都こそ、脆く崩れ去ったではないか……っ!」
「ふぅむ、言うではないか……誰に言われんでも、その牙の剥き出し方位は心得ている様だ」
「さっきから貴様……っ私を愚弄してッ」
「他者の定めた譜面をなぞるだけの演奏などつまらん。貴様はネジを巻かれたら同じ旋律を繰り返すだけのオルゴール……
「キ――――ッ!!」
燃え立つ様に赤面するシャルルが、奇声にも近い声を発した――
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