第421話 鼓動の真骨頂
「掛かって来るが良い家畜、何処からでも」
金色の杖を構えて凄まじいまでの殺気を放ったシャルルが、指先をクイと赤目を挑発する。彼の背後に空いた壁の風穴からは、残された騎士達が外へと逃げ出していくのが見える。
「近付けません……何という殺意なのでしょう」
強烈なるシャルルの放つ波動――『
「これが完全に目覚めたフランスの大王ですか」
ジッと隙を窺っていたフロンスであったが、その時、風に乗った青年が涙を振り撒きながら疾走していったのに気付く――
「いけない、ポックさん!」
「ぅうあああ!! クレイスの、仲間達の想いは俺が繋ぐっスッ!!」
緑色の風に乗り、目にも留まらぬ双剣の乱舞を繰り返すポックがシャルルの眼前へと迫る。
「『
振り上げられた二本の銀の煌めき――そんな敵を目前にしながら、未だシャルルは構えの姿勢を崩さないでいた。
「死ぃいねぇっスゥううう!!!」
「
――次の瞬間にフロンスは、それまでとは毛色を違えた老王の魔力の流れを知覚する。
「
「な……! ゥウアアア――ッ!?」
ポックの双剣が自らの頭をかち割るよりも先に、シャルルの鉄棒が足下の大地に振り下ろされていた。その瞬間、金色の杖の先端より溢れ出した魔力が破裂し、そこに巨大な瓦礫を形成しながら中空のポックを跳ね返していた。
「そこまでの練度の属性魔法っ!? 何故今迄使わなかったっ!」
フロンスの疑問に対する解は一つ……
「乱れ咲け……『枝垂れ桜』――!」
「ウブァッ――――が!!」
緩々と下げられていった金色の杖が残像を残す程の連撃でポックの胸を打って地に叩き付けると、衝撃のままに大地を何度もバウンドしながら吹き飛ばされていく。
壁に背を打ち付けたポックが、一撃の元に失神を余儀無くされて白目を剥いた。
「次……」
静かに構えに戻った大王を認め、生唾を飲み込んだフロンスが感じたのは――目前の男が生命としての
『
「先程までの姿ですら……真の貴方にとっては覚醒の中途であったという訳ですか」
フロンスの潜めた眉根に冷たい汗が伝う……しかし次に無謀なる声を上げたのは、僅かに残された自軍の赤目達であった。
「ガラスの世界が終われば俺達にも勝機がある!」
「敵は一人だ、いくぞ魔物達よ!」
力量の差を測れぬ仲間達が突撃していく光景に、フロンスは声を張り上げて制止を試みる。
「待ってください、今のシャルルさんでは束になった所で!」
数百ともなる仲間達の咆哮に掻き消されたフロンスの声は、誰に届く事も無く煙の様に消えていった。
足場を鳴らす怒涛の多勢が、背後より光に照らし出されたシャルルへと一斉に飛び込んでいく――
「……『火の鼓動――炎舞』」
シャルルに覆い被さる様に折り重なった魔物とロチアートの群れ、決死の形相で将の首筋を狙うが、山となった兵の隙間より、フロンスは過激なる炎の発生を視認した――
「あぁあ熱い、ナンダ!? っ焼ける――!!」
「押せ、この数で押し潰せば必ず……っ」
「怯むな、俺達の未来の為に、何としてでもこの男だけは!!」
杖の中間を握って舞う様に振り乱し、その両端より苛烈な炎を放ち続けるシャルルが赤目の大群を焼き払っていく。
それでも続々と迫り行く兵……これだけの頭数があれば圧殺する事も可能だと、わらわらと襲い掛かっていく赤き眼光達――
「貴方にとっていかに雑兵であろうとも……」
強く奥歯を噛み締めたフロンスが眺めるは、視界を埋め尽くす命の群れの中で、金色の軌道を空に残しながら激しい炎舞が続けられていく光景……シャルルを押しやる所か、火炎と金の道筋は徐々にと人波を切り払って拡大を続けていくのであった。
「この数を単体で、真正面から薙ぎ払いますかっ」
やがて命の燃えカスが周囲に積み上がっていくと、大王を中心としたその場はまるで爆心地とでも形容するしか無い有様だけが残る。
炎に焼け始めた教会……そこに堂々立ち尽くす大王による殺気――
「無茶苦茶だ……これがたった一人の人間なのかよ!」
「さっきよりずっと強いじゃないか、なんだよ何なんだよアイツは!」
仲間達の亡骸が百程に上ってようやく、彼等は自ら達が災害に向かっていくかの様な無謀を冒している事を悟って足を止め始めた……
「『水の鼓動――激流』――」
「え――っ」
「ぅあああ、水が!」
構えを変えていったシャルルが杖より放出する水流を逆巻いて、寄る群衆と教会の炎を一挙に押しやっていった。
鎮火によって生じた白煙に紛れ、苛烈な眼光がそこに灯る――
「次……」
ただ一人の男によって晒された恐怖に、ロチアート達が恐れ慄いていった。
「これ以上仲間達が殺されていくのを、指をくわえて見ている事は出来ません……やるしかありませんか」
――とても勝算の見えぬままであったが、フロンスは目前の武人へと相対するしか無かった。そして一人前へと踏み出すと、放散する雷撃が白煙を押し退けていったのを認めていく。
「『
「幾つの魔力を扱うんですか、もう脱帽するしか無いです」
バリバリと拡散する光の明滅を前に、フロンスは舐める様に教会内部を見渡していった。残された騎士は数十程の僅かであるが、シャルルの意志に共鳴を果たし、忠義の為にその場に留まる者も見受けられた。
「チンタラやっていても仕方が無い、ご飯の残っている内にやってしまいましょうか」
「飯は貴様だ……ロチアート」
「フフッ……」
微笑したフロンスは、再びに
「『
みるみると膨張していった巨大な化物が、赤黒い肉の翼を押し開く――
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