第412話 信頼


「あくまで抗うか家畜共」


 取り残されたクリッソンが認めるは、教会の半分程を埋め尽くすまでに巨大化したシャルルの“球”。そこに吹き荒れる猛吹雪の様な白の煌めきと突風……そして、災害へと果敢に立ち向かうロチアート達の後ろ姿である。


まこと、針に糸を通すかの如き微かな希望よ……今のシャルルの化物じみた闘気を見てもまだ諦めんとは、抗えば抗う程に虚しくなるだけだろう、ぐふふ」


 無尽蔵かの様なクリスタルの槍が中空に形成され、ロチアートや魔物達へと降り注いでいく。彼等は身を守るだけで精一杯であったが、グラディエーター達が暗黒の槍の投擲とうてきにて僅かに抵抗を試みている。――だがやはり、彼等の抵抗は呆気も無くシャルルに握り潰されていく。


「……何をしてももう無駄である。私の術中にハマった貴様達は既に、蟻地獄に肩口までハマった虫ケラなのだ」


 肉の異形となったフロンスがシャルルへと迫るも、造作も無さそうにして金色の杖の餌食となっていった光景より、クリッソンは緩やかに視線を移していく。認める先はシャルルの“球”によって分断された教会の最奥。激しい戦闘の中、未だミハイル像が形を保って鎮座する光の御旗の元――


「あそこにジャンヌの御旗が立ち上る限り、シャルルの敗北は万に一つもないであろう、割れた体は私の『修繕』で局部的にならば直すことも可能だ。正に完璧なる策略であろう」


 その片眼鏡モノクルに反射した光景は、超大ともいえる光の御旗を巧みに振り回し、風にのって接近せんとするポックを幾度も撃ち落としていくジャンヌの勇姿である。ズタボロになりながらも立ち上がり、再びに風を吹き上げながら地を走る小柄な剣闘士は哀れ極まりなく、クリッソンはハゲ頭を撫で付けながら肩を揺らした。


「シャルルをどうにかするよりも、力の根源を断たんとする方が幾らか現実的だろうに……ぐふふ、しかしそれに気付かぬフロンスではあるまい、そちらは任せたからと自らの目先に注力しておるのか……全くなんと涙ぐましい信頼とやらだ」


 後ろ手を組んだ参謀は、ただただ一人戦乱の最中にありながら傍観を決め込む――


「しかしあの小柄な奴隷戦士にジャンヌを打ち破る事は叶わぬであろう。何せ乙女には、奇想天外世界の法則を捻じ曲げるかの様ながある」


 “敵”足り得ると認めた強者へと、クリッソンは嫌味な舌舐めずりを贈った――


……そいつは私の一番嫌いで最も理解に苦しむ言葉だ。一銭にもならん友情ごっこの果て、貴様はこの戦況をどう覆す……なぁ、

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