第339話 皆殺しピクニック
「風景を自在に変える“妄想使い”って……もし仮に私達の足元をマグマにでもされたらどうしょうもないじゃない」
「多分だが、俺と同じ様に奴の能力にも何かしらの制約がある筈だ……でなきゃ嬢ちゃんの言う様に、俺達はとっくに皆殺しにされてるだろうぜ」
シクスの『
「しかし厄介だ……俺の『幻』はそこにある筈の無い夢の幻影をあくまで対象者のみが知覚する幻影としてそこに具現化するが……あのギーとかいうヒョロガキは、観測した現実そのものを改変していやがる」
シクスは自らと似た能力を駆使する男を見やり何か打開する術を考えるが、『幻』はその特性上
つまりはシクスの“夢”は、ギーの繰り広げる“妄想”に対抗する術も無く打ち消されてしまうのである。
「くそ……ここで門を開くしかねぇのか」
「まだ待ってシクス、ジル・ド・レも何か隠してる」
シクスの開く『鬼畜門』であれば、そこに特例的に実態を得た化物――ジャクラを黄泉より出現させる事が出来る。しかし莫大な魔力を消費するあの大技を破られれば、もうシクスにまともに闘える力は残されないであろう。ジル・ド・レの能力が判明しない今、諸刃の剣を抜き出すのはまだ早計な気がする。
するとギーの技を見破った様子のシクスに、ジル・ド・レが称賛の拍手を始めた。頭に『?』を浮かべたギーも、彼を真似る様にして大袈裟に手を打ち始めた。
「フッフッ野蛮人だけあってか、闘いの本能はなかなかのものだな。一目でギーの力を見抜くとはアッパレ!」
「アンギャァッパァァアアア、アッパレアッパレ!!」
余裕そうに振る舞ってマントをそよがせるジル・ド・レに、セイルの額にピキリと青筋が立つ。
「調子に乗って……っ『
苛ついたまま手元から黒き火炎を投げ放つが――
「『
「っ……また!」
宙空で切り払われたジル・ド・レのショーテルが、炎の軌道を変えて空へと打ち上げてしまった。
鼻筋にシワを寄せ始めた少女を見下ろし、また手を打ち始めたジル・ド・レとギー。
「うーん、良い良い、なかなかに良い。フッフッフ」
「あっギャッギャ、良い良い!!」
「今に吠え面かかせてあげるわ!」
「おい嬢ちゃん、頭に血ぃ、上らせるなっつったのお前だろうが」
地に手を付いたセイルが、巨大な転移魔法の陣をジル・ド・レとギーの足下に出現させる。そして自らの眼下に現れている桃色の陣に向かって、ありったけの黒き灼熱を流し込んだ。
「『
するとジル・ド・レは腰を捻じりながら、手に持った曲刀を足元へと突き立てる。
「『
「ぁ――ッ!」
転移先さえも
「「アァァああ熱い熱いッ!!」」
転移の魔法陣よりい出た黒き炎に骨まで溶かされてしまったロチアート達。即座に炎を出力する事を辞めたセイルであったが、焼け焦げた生命は戻って来ない。
「はっはっはー良いぞ、もっとやってみろ、もっと来いっ!」
「この……っ」
上体を過剰に捻じって背後に向いたジル・ド・レが、そのまま愉しそうに肩を揺すっている。
「私の転移魔法が通じない……っ!」
セイル得意の転移魔法ですらが、ミハイルの仕込んだ匠な配兵によって封じられている。
兵の数こそ優位にあるが、敵指揮官二人がこちらの能力に対して徹底的に有利な力を有している様である。
絶対的に不利を強いられた布陣……しかしシクスは首をコキリと鳴らしてニタニタと笑み、セイルはまるで怖じける様子も無く眉を怒らせていった――
「嬢ちゃん、遠距離のままじゃ攻撃の手立てがねぇ、こりゃ泥臭くやらなきゃ勝ち目はねぇぞ」
「うん……分かってる」
「んじゃあ、やる事は一つだな」
怒り心頭となったセイルが、背に
「絶対許さない……!」
あらゆる魔の干渉を拒絶する炎の翼が、メラメラと焼き上がって少女の瞳に反射する。
シクスも再びに異形の群れを現しながら笑い始めた。
「えヒャヒャヒャっこの程度の事で勝ち誇ったテメェらこそ笑えるぜぇ、これ位の修羅場は山程潜って来てんだよ、何時だって俺達は、敵よりもずっと数が少なかったんだからなぁあ!」
「何時までも高みの見物を決め込んでいられるなんて思わないでよね……お前達の恐れる悪夢は、直ぐ背後にまで忍び寄ってる!!」
「随分息巻いているが、作戦でもあるのか? 何をしようが無駄だというのが分からないのか」
「来るがいい猿共よ……」
「アンギャァァアっ!」
距離を保ったこの間合いならば、彼等は何を仕掛けて来られても悠然とシクスとセイルの攻撃を払い除けられるだろう。
「転移先を捻る為には、このショーテルの斬撃を加える必要がある。その場に兵が押し固まっていては何も出来んか、成程……少しは頭も使えるか」
「フギィイイっ!!」
セイルが巨大な転移の魔法陣を起こし、そこに魔物の群れを取り囲んでいた。
その座標はジル・ド・レ達より手前、意気揚々と陣を組んだまま進軍して来る、白き騎士達の渦中であった――
面食らった二人に向けて、シクスとセイルが勝ち気な表情を向けていく。
「今の私達には、ずっと沢山の仲間達が居る、同じ夢を見る仲間が!」
「作戦もヘッタクレもねぇんだよ、こりゃあ兄貴が困った時に多用する、敵陣ど真ん中全部ブッ壊し戦法だ!!」
そうして転移を果たした魔物の群れが、強固な防御の陣を構えていた騎士達の足下に溢れ返り始めた。
「うっな、なんだ、魔物が!?」
「配置に付け、陣を……陣を崩さなければ! ッうぐぁあ!」
更に何度も転移を繰り返し続々と現れる魔物の群れが、敵の陣形を総崩れにしていく。
眼前にぬらりと掲げたダガーを舌舐めずりしたシクスが、自らも前線へと飛び込んで行きながら、この機を逃すまいと号令をかけた。
「行くぞテメェらァァァ皆殺しピクニックだぁあ!!」
「「オオオオオオオオオオオオ!!!」」
突如目前に溢れ返り、敵兵との距離も一挙に詰められてしまったジル・ド・レは頭に手をやる。
「成程、それは失念していた……この様な魔術というモノがあれば、我等の時代の戦術も変わっていたのであろう……」
「ギャァォア!! 敵が近いぞ兄者ぁぁあ!!」
気付けばまんまと白兵戦へと押しやられていたジル・ド・レは、赤目の飛び込んで来る光景と、指揮官として不甲斐無い自分に嘆息しながら、仕方無さそうにショーテルを強く握り込んだ。
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