第285話 「そうだ、貴様に神罰を贈ろう」
絶叫と共に踏み込んだヘルヴィム。彼の振るう聖十字の強烈な一薙ぎを、ダルフは飛び退いて回避する。
「カァアッ!! 折れた腕のまま俺とやろうってかぁ……アァ゛ッ!! やろうってのかぁぁ!!?」
「……っ!」
自らの内に流れる
「ゴォオアアアアアアラァアア――ッッ!!!」
「くそっ……!」
しかし迫り来る猛烈なるプレッシャーが、ダルフにそれを不可能だと伝えている。例え彼が全快の状態であったとしても、この烈火の様な男には敵うか分からない。
「ぅうう……!」
ダルフの心臓が大きく脈打つ。巡り始めた血液が、彼の傷付いた体を
折れた鼻を元の通りに形成し、ひしゃげた腕が、傷付いた体が再生していく。
――ダルフの中に流れる、
「やってみろよ、倒してみやがれ、殴れ!! 殴ってみやがれぇええッッこぉおのロードシャイン家の面汚しがぁぁああ!!」
力んだ拍子に噴き上げる血液を風に流し、尚も苛烈に踏み出して来るこの男は一体何なのだろう……
神罰代行人としての宿願――
先程口走られたこの男による説法を、ダルフはほとんど理解していなかった。それ程に神罰代行人の提唱する世界観は、余りに独創的に過ぎる。
……まぁ要は、この気迫を見るに察するは――
「シネェエエエエエエエィイッッ!!」
――この男が今、ダルフを殺そうとしているという事だ。
ヘルヴィムは先程、ダルフを試すという趣旨の発言をしていた。
「ヘルヴィム……! 今俺達は、こんな事をしている場合ではないだろうっ!」
「場合だボケがァアッッ!!」
大振りの一撃が、ダルフの傍らの地を吹き飛ばしていく。
しかし、この男の血走った
「まぁぁだなよなよしてんのカァアアアッ!!」
「うぐ――!」
果敢に接近して来るヘルヴィムが、強烈な肩を繰り出してダルフの胸を打った。そして吹き飛ばした先に、聖十字を振り下ろす。
「ドォらァァァ!!!」
後先考えぬ豪快な一撃が、風を割って大地を砕いていった。
「んア?!」
――しかし、高く上がった土煙の中にダルフの姿は無い。
「いいや、こんな事をしている場合では――」
「……ッ!」
直ぐ背後から放たれた声に、ヘルヴィムは勢い良く振り返った――
「――無いッッ!!」
「ヌゥぅがァァ――ッ!」
振り向き様に喰らったダルフの拳。雷撃を纏った渾身の一撃は、彼の頬を抉って殴り飛ば――
「……」
「な……!!」
――――せなかった。
フゥドに見舞った一撃よりも、腰を入れた確かな一撃であった筈だが、岩壁でも殴り付けたかの様に微動だにしない。
丸い
「化け物かアンタっ……」
驚愕としたダルフへと、ジロリとヘルヴィムの視線が向く。
「今ひとぉおつ……思い切りが足りぬぅ」
「!?」
「振り切れぬ悪夢がぁぁ、未だ亡霊の様にお前の背に乗っているぅ……迷いが、恐れが取り憑いてぇ、腹に宿った力が霧散してしまっているぅ」
ヘルヴィムはダルフから離れ、そのまま明後日の方角へと歩んでいってしまう。
「何処へ……!」
「……」
そして転がった信者達の十字剣を一つ拾い上げると、ダルフの足元へと投げて寄越す。
「何のつもりだ……」
「拾えぇ、それともぉ……お前には軽く、小さ過ぎるかぁぁ」
小馬鹿にされている様な心持ちとなったダルフは、眉を
「敵に塩でも送っているつもりか……」
再びに恐ろしい形相へと変貌していった神罰代行人は、特徴的な髪を逆巻かせ、白い歯を見せる。
「貴様に
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