第134話 デジャヴュ
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半壊したコロッセオにて団結するグラディエーター達に対して、
「随分と楽しそうにしてるじゃあねぇか。家畜の群れが」
背後に100の騎士を引き連れたファルロが、悠然とコロッセオへと足を踏み入れた。
顔を斜めにして肩に鉄球の鎚を担ぎながら、自信気な表情を披露している。
冷たい眼差しでそちらに向き直った鴉紋とセイルに、ロチアートの一人が耳打ちする。
「第22隊隊長、ファルロ・キシゲドンです鴉紋様」
闘技場まで歩んで来た騎士達が、50のロチアート達と向き合って剣を抜く。先頭に立ったファルロがツバを吐き、眉を上げて語り始める。
「奴隷共が一端に謀反とは驚いたなぁ。貴様等が束になっても我々、栄光の騎士に敵わんという事は痛い程分かっているだろうに」
膠着した最中にて、鴉紋が一人足を引き摺りながら歩き始める。それに気付いたセイルが口を開いた。
「鴉紋。私がやる」
前に出て行こうとしたセイルの肩を鴉紋が抑える。
「問題無い。雑魚だ」
一人前に出て来る大将首の足を摺った姿に、ファルロが調子づく。
「がっはっはぁ! 貴様が終夜鴉紋か。そうかそうかぁ……がっはっはっ威厳もなにも無い、随分と情けのねぇ姿だ。どうした? 肩でも貸してやろうか?」
黙して歩んで行く鴉紋を待ち受けながら、ファルロも、背後の騎士達もが笑いを漏らし始める。
クレイス達はおろおろとしながら、鴉紋に心配の眼差しを向けている。
腹を抱えたファルロも、舌なめずりをしながら前に出て行く。
「貴様の様な輩がナイトメア? 悪の権化だってぇ? がっはっはぁ 他の都のレベルの低さが窺えるわ。指で小突けば倒れちまいそうじゃあねぇか!」
罵りを聞いたセイルが、瞳に深い闇を携え始めた。
ファルロの後方の騎士達も同調し、笑い声を上げる。
ただ黙って歩んで来る鴉紋が、ファルロを正面に捉えた。
「我等栄光の騎士の格の違いを見せてやる」
隆々とした二の腕を見せ付けながら、ファルロは巨大な鉄球を頭上に構えた。
すると喜び勇んだ騎士達が、ふざけた調子で彼を鼓舞する。
「やっちまって下さいファルロ様。一撃でペシャンコにしてやりましょう」
「あれじゃあ踏ん張りも効きませんよ。俺達はこんな存在に恐れていたのか、馬鹿馬鹿しい」
「さっさと終わらせて、そこの肉共でバーベキューでもしましょうファルロ様!」
その声に返答を返すようにして両の眉を上げ、口元を微笑ませたファルロが、大木の様に太い腕から鉄球を振り下ろした。
「手加減せんぞぉ、終夜鴉紋ッ!!」
ただ真っ直ぐに、鴉紋の頭上に太い両腕に握り込まれた鉄の塊が落ちていく。
「鴉紋様!!」
未だ何の動作も見せぬ鴉紋に、クレイス達が声を荒げる。風を切った鉄球が鴉紋に迫っていく。
「――――ッあ――っ!!?」
間抜けな声を上げていたファルロが、ビタリと静止した鉄球に太い両腕を痺れ上がらせていた。
「――な、なに……?」
インパクトの直前でゆるりと挙げられた鴉紋の黒い右腕が、ファルロの強烈な一撃を止めている。
――そんな一撃では、終夜鴉紋には届かない!
ファルロにデジャヴュするは、同じ様にダルフに止められた渾身の一撃の瞬間。亡霊の言葉が、ファルロの全身に一挙に緊張感を走らせる。
「これが隊長様の一撃かよ……ママごとみてぇな威力だ」
鴉紋の左腕が黒く変色し、拳を作り込む。
「――――っ!!?」
その拳に秘められた衝動に察しがつく程の度量は持ち合わせていたらしいファルロが、みるみると冷や汗を垂らしながら、目を丸くして萎縮する。
禍々しい力が解き放たれる瞬間に、ファルロは息を呑んで後方に飛びのいていた。
「ファ……ファルロ様?」
「どうしたのです、一体何が……?」
風の魔力を纏って後退したファルロに騎士達が驚く。しかし彼は普段の軽口も叩けぬ程に、今一瞬退くのが遅ければ肉塊にされていたであろうという事実を、振り抜かれる事の無かった鴉紋の左の拳に見る。
その邪悪を迸らせる鴉紋の拳に。
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