第46話 12時15分、12時20分
2049年12月22日水曜日 12時15分 東京都千代田区 警視庁 地下二階
「……里井、ケリーが入ってきた」
北原はホテルの監視カメラ映像をモニターで見ながら、無線で話かける。後ろにはウィリアムズがいて、同じくモニターを眺めている。北原は今、ホテル内の全カメラだけでなく、周辺のカメラまでハッキングし見れるようにしており、その様子を現場組に逐一報告していた。
「クロスは……男とタクシーを拾ったか、もうすぐ着くぞ」
『了解』
「今、里井と飯田さんが待機している場所の目の前をクロスが通ります。念の為、退避しておいた方が」
『了解、反対側の入り口へ移動する』
そう返事する飯田の声は、北原とウィリアムズ、そして上原に同時通信で入っている。
「キャシー、上原さんもうすぐだよね」
「ええ、午後には到着と言っていたわ」
ここまでは、ある意味で里井の想定どおりだ。結果的に、標的全員が帝国ホテルに集結することとなった。当然ながら、どこまで先方が認識しているか、構えているかは、未知数なのであった。
2049年12月22日水曜日 12時20分 東京都千代田区 帝国ホテル内
ラウンジには妙な雰囲気を醸し出す三人の姿があった。
「いやー、妙なことが起きたよね。ローラン、どう思う」
「分かりません。なんとなくですが……」
「誰かの意思で、あたしたち集められた気がしなくもないわね」
ちょうど到着したクロスが、ケリーに割って入るように話す。
「ダイアナ、早かったね。……うーん、そうだとしたら、由々しき事態だよねえ。とりあえず食べて考えますか」
リーカーはそう言いながら食事を口に運ぶ。いつも通りテンションではあるが、どこか緊張感のある物言いではあった。ケリーもクロスもその空気感を感じ取っていた。クロスは周囲を見ながら、席につく。
「ダイアナ、君も好きなもの頼んでね」
リーカーは笑顔でそう言った。ある意味、いつも通りなわけだが、やはりどうしても神経を尖らせている様子は拭えないのだった。
2049年12月22日水曜日 12時20分 神奈川県川崎市多摩区 兼修大学 五十嵐教授研究室
室内では、北里が書類やデータ、片っ端から漁っていた。名目上は「研究室内の整理整頓」なのだが、どうやら違う目的を持っているようだ。
「絶対どこかに……教授なら隠しているはず……」
そう独り言を言いながら、手は止めない。彼女は、告発を目論んでいた。森崎教授の支援が得られない以上、自身で必要な資料をかき集めるしかない。ただ、オフィシャルには研究は中座していることなっているため、大学側へ請求しても黒塗りの情報しか得られないのだ。これでは、告発にはならない。超記憶研究によって起きたことを、伝える必要があると思っていた。
元々研究の手伝いはしていたため森崎とも連絡が取れる関係にはあったが、決して彼についてるというわけではなかった。昨日発生した野矢優の件が、引き金になっていた。色々考えながら作業をしている北里だが、おもむろに手を止め、携帯電話を取り出した。
「……祥子?あんた今日暇?」
効率を上げるため、助っ人を呼ぶようだ。ここで一つ理解しておかなければいけないことは、彼女の行動を、誰も把握していないということだ。ただ、一人を除いては。後に、警察である上村に相談すべきだった、そう思わざる得ない瞬間が訪れるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます