第35話 17時35分、18時25分
2049年12月21日 火曜日 17時35分 東京都千代田区 警視庁 地下二階
司令室には、局長の増田、交渉係のウィリアムズ、情報担当の北原がいる。
「そろそろ時間だな。早めに向かうとしよう」
上原は、北原から無線機などの装備一式を受けて取ると立ち上がった。
「上原君、念のため確認しておきたい。潜入の目的は?」
「取引日時の確認と居場所の特定。極力接触せずに入手するつもりだが、必要なら接触も考える」
増田が、上原に向き合う。その瞬間、少し空気が張り詰めたことを場にいる人間は感じ取った。
「接触は、止めない。ただ、無茶はしないでくれ。それ以上の情報を入手する必要もない」
「増田、分かってる。新人じゃないんだ。これは里井の仕事の成功率を上げるための、余興だろう。私はただ、パーティを楽しむさ。……北原、サポート頼むぞ」
「はい、お気をつけて」
上原はその言葉に頷くと、静かに司令室を後にした。
「北原君、里井君は今どこにいるか分かるかな?」
「先ほど、警視庁に戻りました。後ほど、ここに来るかと。先に捜査一課の事件の処理をすると言ってました。先に、入手した情報は送ってもらってますので、整理しておきます」
「頼むよ。上原君が入手した情報によっては、明日早々に潜入することも考えられる。そうなれば、今日中に皆と情報共有をしておきたい」
「……はい、わかりました」
「和人、手伝うわよ」
「キャシー、助かる」
二人は里井から送られてきたメモ、防犯カメラ映像、似顔絵データなど、全ての解析を急ぐ。隣の会議室には飯田がいるが、潜入のための準備を進めているのだ。
「北原君、里井君にも潜入に必要な情報は送ったのかね?」
「はい、送りましたが、おそらく確認できてないですよ。里井、今日はフル稼働ですからね。里井なら、大丈夫でしょう。後で会ったときに、飯田さんも交えてきちんと設定に関しては説明しておきます」
「……宜しく頼むよ。また少し外すが、すぐに戻る」
そう言いながら、増田は司令室を後にした。司令室にいるのは、北原とウィリアムズの二人となった。
「……キャシー、今日お昼ごろ、御子橋警視総監に呼ばれたって、わざわざ言ったよね、増田さん。さっき戻ってきたってことは、結構な長話だよね、何かな」
「増田さんは他の仕事もあったんでしょう、副総監は本業もそんな暇ではないわ」
「何だよ、俺が暇でSIIやってるみたいな言い方だな」
「ふふ。暇とは言わないわ、和人、あなたは有能で、孝太郎の信頼できるパートナー。仮に忙しくても、彼の依頼を優先する」
「……やめろよな、本人の前では言うなよ……俺は対抗心持ってるんだ、これでも」
ウィリアムズはその言葉に笑みを浮かべながら作業を進めた。北原はその様子を見ながら、自身も手を動かすことに集中する。
しかし、ウィリアムズも気になっていた。増田が、御子橋警視総監に呼ばれたことを。ただそれは、北原と議論することではないことを分かっている。今は、北原の指示を受けながら情報整理の手伝いに集中するのだった。
2049年12月21日 火曜日 18時25分 東京都港区 ホテルオークラ東京
ホテルの正面入り口に高級車が停車する。運転手は車を降りると、ドアマンが近づくよりも早く後部座席に回り込み、ドアを開く。
そこからは妖艶な白人女性が姿を現した。目を引く、太もも辺りまで剥き出しの過激なドレスだが下品さがない。上品に着こなすのは、その者の素質だろうか。
「あら、ローラン。あたし、目立っているみたい」
男は無言で車の扉を閉める。
「あなたは参加しないのね。どうするの?」
「近くにいます。何かあればお呼びください。社長にもそうお伝えを」
「そう、ありがと」
女性が正面入り口に向かうと、男性が一人女性に向かって歩いてくる。
「ダイアナ、今日も実に美しい」
「ダボス、あなたもそのタキシード、なかなか似合ってるわ」
二人は名前を呼び合い笑みを交わすとそのまま腕を組み、並んで入り口から入っていく。そこにすぐさま、数名のホテルマンが二人に駆け寄る。
「リーカー様、クロス様、お待ちしておりました!本日、ご宿泊も可能ですが……」
「間に合ってるわ。早く会場へ案内してちょうだい」
クロスはそう言うと、止まらずに歩き続ける。ホテルマンたちは慌てて二人を先導するのだった。
その様子を、ケリーは後方から見ていた。そして車に乗り込み、その場を去るのだった。
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