第24話 12時02分、12時03分、12時04分
2049年12月21日 火曜日 12時02分 東京都狛江市 某所
「……よし、これでOKだ」
横沢は猿田友弘の足取りを追うためモンテネグロ近くのウィークリーマンションを捜索していたわけだが、その中で、聞き込み情報などを基に同じマンションの別部屋も借りている事実を突き止めた。
そして、偶然にもその別部屋の正面にあるマンションが空室であることが判明、不動産屋の力を借りてそこから部屋の中を観察していたところ、たった今、猿田と思われる男性の姿を確認することができたのだった。横沢はそれを、グループチャットでチームメンバーに送信した。すると、さっそく電話が鳴る。
「……横沢です。はい、お隣の方の情報で、同じマンションにもう一部屋借りていたことを突き止めました。今、反対にあるマンションから覗いてるんですが……お送りした通り、猿田は部屋の中にいます。どうしますか?……分かりました。場所は、モンテネグロ近くのウィークリーマンション、301号室です。行田さんの方は?……そうですか、分かりました。応援を待ちます」
横沢は電話を切ると、再度双眼鏡を片手に部屋を覗き込む。そこには忙しなく部屋の中を右往左往する男の姿が見える。カーテンを閉めることすら忘れるくらい、パニックになり何かに焦っているものと思われる。
横沢は自分の手柄に満足した表情を浮かべながら、行田が手配した応援を待つこととした。
2049年12月21日 火曜日 12時03分 東京都横浜市西区 某カフェ
「……すみません、電話失礼しました。それで、この女性は今朝も?」
行田は防犯カメラ映像の写真を片手に、横浜駅近くのカフェで店員に聞き込みをしていた。カメラ映像を経由し追い続けた結果、このカフェに辿り着いたのだ。
「ええ、フードの男性と会話して、少ししたら店の目の前に来た迎えの車に乗って、出られてしまいましたが……」
「迎え?そうですか……誰かと一緒に行動しているのか……すみません、詳細に覚えていただいて助かります」
「あ、いや……あのフードの男の人、何だかすごいオーラというか、雰囲気ですごく印象的だったので……女性も綺麗な方でしたし、何かの撮影かなーとか思ってたんですけど」
「……ありがとうございます。助かりました。また何か思い出したら、こちらへ連絡ください」
行田は名刺を渡して一礼し、カフェを出た。正面のビルにカメラがついていることを確認する。
「これなら映っているかもしれないな……」
行田は着実に近づいていることを確信するとともに、野矢美佐子と一緒にいたフードの男のことが気になっていた。グループチャットでカフェでの聞き込みの成果を報告し、正面のビルへ入っていった。
2049年12月21日 火曜日 12時04分 東京都千代田区 帝国ホテル 一室
「はっはっは。またもストレートフラッシュとは。なかなかのツキだよ、君は」
手札を机に投げ、男は立ち上がる。机を囲む女性たちからはその様子に笑い声が上がった。勝利の手札を手にした女性の肩を叩き、机の反対側へ座る男へ近づく。部屋の中では英語とロシア語が入り混じった会話が交わされていた。
「社長、そろそろ準備を……」
そう言いながら、その男も手札を伏せる。
「慌てる必要はない、ローラン。全て順調なんだ。今を楽しもうではないか」
「私は、奪いに行ってきます」
「……ああ、大事な取引道具をね。居場所、わかったのかい」
「いえ、まだではありますが、野矢美佐子を追っている捜査官に取り付けた盗聴器で、ノエルに情報を収集させてます」
「そう。そっちは頼むよ。私は今晩のパーティに出るまで、この麗しい女性たちとゲームの続きでもやろうかね」
「お任せしますが……パーティにはクロスと?」
「んー、それがいいかな。とびっきり派手なドレス着るように言わないと」
「そういえばクロスはどこに?」
「ああ、彼女は新宿にある花田神社に行ってる。取引の会場、らしいね。夕方には戻るはずだよ。ローラン、君も近くにはいて欲しいから、夕方までには戻ってね」
「分かりました」
ローランは立ち上がり、ゲーム会場となっている寝室を離れ、ダイニングに移動する。すると、そこで待望の電話が鳴る。
「ノエルか。待ってたぞ」
『場所が分かりました。どうやら別の捜査官が猿田友弘を追っていたようです。事務所としていたモンテネグロの近く、ウィークリーマンションの一室です』
「確か、狛江市……野矢美佐子が荷物の置き場にしていた場所だな。その近くにいたとは……。よくやった、すぐに向かう。お前はどのぐらいで行ける?」
『まだ横浜市内ですので、1時間以内には。あと、野矢美佐子は誰かと一緒に行動しているようで……そっちの方はどうしますか』
「おそらく、五十嵐だろう。野矢美佐子を捕まえたようだな。自分達の武器を守るのに必死なのは当然か……野矢美沙子に用はない。こっちが先に奪うぞ、俺もすぐに向かう」
ローランは電話を切り、寝室に再度向かう。
「社長」
「あー、聞こえたよ。行ってらっしゃい。しくじらないでね。心配はしてないけど」
男は目線を上げずに、そう言った。先ほどとは全く違う、低い声だ。
「……分かりました」
ローランはそう言い残し、ホテルの部屋を後にした。
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