第23話 12時01分
2049年12月20日 月曜日 12時01分 東京都文京区 東欧大学 正門
「ここか……」
年末に差し掛かっているにも関わらず、多くの人が校内を出入りしている。里井は正門から中に入り、門の横にいる警備員に話しかける。
「すみません、警視庁捜査一課の里井と言います。ある事件の調査で来てますが、内密に動きたいので許可などはいりません。森崎教授の研究室がどこにあるか、それだけ教えてもらえますか」
警察手帳を見せながらそう言うと、警備員は頷き案内図を手に、里井へ親切に説明を始めた。
里井は、お礼を言いつつ「くれぐれも私の存在は他言しないように」と言い残し早歩きで館内へ向かう。
学生たちとすれ違いながら周囲を見渡し、校内の位置関係を把握する。常に避難経路は確保する、敵地に入る際の必須項目だ。校内を一周し、ようやく「森崎研究室」に到着する。部屋は電気が点いており声も聞こえてくる。
(本人がいるな……さて、どうする)
里井は意外にも、何のプランも無く訪れていた。いま発生している一連の事件は、確実に繋がっていると里井は読んでいる。ダボス・リーカーの潜入は北原が、野矢美佐子の足取りは行田が、それぞれ掴みかけている。この状況下で自分のやるべきことは、この背景にあるものを暴くことだと直感的にわかっているのだ。思案中に携帯のバイブレーションが鳴る。
「……北原か、いまちょうど着いたところだ。待ってたよ」
『里井、よく聞いてくれ。超記憶研究は、相当ヤバいぞ』
「それは分かってるよ。概要は調べたんだ。成功してたらとんでもないことにな『成功してたんだ!人体実験の、治験に参加した3人が、それぞれ超人的な能力を手に入れているんだよ!』
食い気味に話す北原に里井は目を見開く。研究室の入り口からゆっくり後退りし、振り向いて立ち去ろうとした。
ガラッ!
扉を開けたのは他でもない、森崎教授、張本人だった。里井は計らずも、正面から対峙することになってしまったのだ。
『とりあえず、カタギの人間じゃないことは間違いない、というかかなりヤバい奴だ、無策で飛び込む相手じゃないぞ!とりあえず一旦戻ってこい!』
「……北原、いまの情報を上村詩恩に送ってくれ。頼んだぞ」
『え、聞いてんのかお』
北原に最後まで言わせる隙を与えず電話を切る。それもそうだ。目の前には、お目当ての人物がいる。
「見かけない方のようですが……私に何か用ですか」
「……森崎さんですね。少々お伺いしたいことが」
「いま忙しいんですがね……警察の方でしたら、まあ……手短に済むなら構いませんけど」
里井は名乗ってもいないのに警察と認識されたことに驚きを隠せない。隠密行動のつもりが、既に予定外の事態だ。
今更ジタバタしても始まらない。里井は冷静さを崩さず、話を進める。
「野矢優という子をご存知ですね?」
「ええ、もちろん。私の研究を手伝ってくださってた子です」
「彼が行方不明なんです。居場所をご存知ありませんか?」
里井の言葉に、森崎の表情が変わる。里井はそれを見逃さない。
「何と……いえ、とっくに研究は打ち切られていて、最近はまったく連絡を取っていませんので」
「最後に連絡を取ったのは?」
「半年前くらいでしょうかね……母親の美佐子さんが窓口でしたから、連絡なら取れるかと思いますが」
「……いえ、大丈夫です。ありがとうございました。ちなみに聞きますが……例の研究は何のため、誰のためのものだったんですか?」
再び、森崎の表情が変わる。ただし、先ほどの驚いた表情とは異なり、眉をひそめ里井には怪訝に映る。
「うーん……その回答は控えておきますよ……ところであなた、どちら様で?」
声のトーンが少し変わったことで、里井は限界と判断する。
「すみません、今は優さんの捜索が優先なので……失礼ながらその回答は控えておきます。協力、ありがとうございました」
里井は一礼し、足早にその場を離れる。森崎はその後ろ姿を無表情に眺めながら、白衣のポケットから携帯電話を取り出す。
「あー、もしもし。いま警察に優くんのこと聞かれたけど、まさか君じゃないよね?そうだよねぇ?」
森崎は語気を強め電話口の相手にそう言いながら、研究室の扉を閉めた。
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