第22話 11時59分、12時00分
2049年12月21日 火曜日 11時59分 神奈川県川崎市多摩区 兼修大学 10号館前
「……ここが兼修大学……」
年末に差し掛かっているにも関わらず、建物の入口付近では多くの学生で賑わっている。明るい声が飛び交う中、上村は深い意味もなく、その光景と自身の仕事のギャップを感じていた。細い目で周囲を眺め終えた後、鞄から携帯電話を取り出す。すると、何かの通知が来ていることに気がついた。
(グループチャット……行田さんだ……!野矢美佐子の足取り、掴めたんだ、進展ありそうね)
上村も同じように、チャットで里井個人にメッセージを送る。
“兼修大学に着いた、これから五十嵐教授を訪ねる”
携帯電話を鞄にしまい込み、ちょうど通りかかった女子学生二人組に声を掛ける。
「すみません、五十嵐教授の研修室って、どちらかしら」
二人組は足を止めると同時に少々驚いたような表情を浮かべたが、すぐに返事をしてくれた。
「五十嵐教授ですか……?事故で先日お亡くなりになりましたけど……」
「えっ?」
まさかの返答に、二人組以上に驚いた表情となる上村。理解が追いつかない状況だった。
「事故って、ちょっと待って、いつの話?」
「……というかどちら様なんですか?教授のお知り合いですか?」
ここで至極真っ当な質問を受ける。上村は冷静になり、鞄から警察手帳を取り出す。それを見ると二人組は、ああ、と頷いて話を続けた。
「五十嵐教授は、先週だったかな、交通事故で……。今はゼミも廃止になるとかなんとかで、ゼミ生も浮き足立っちゃってます」
もう一人がそれに答える。
「そもそも、教授亡くなったのに、ゼミとか言ってる場合じゃないのにね、みんな他人事……あ、私、五十嵐教授のゼミ生で、卒業後は研究室にそのまま入ってお手伝いさせていただく予定でした」
上村は思いがけず、当たりを引いたようだ。さらに話を進める。
「ゼミ生?じゃあ、親しかったわよね、残念ね……。今、研修室って入れないのかしら」
「いえ、私たちは教授の資料整理とか任せてもらってて。あと私たちゼミ生は、学校から研究や卒論のためのために研究室の使用許可もらってるんです。片付けとか、まだ手をつけられてないですけど」
「そうなのね。五十嵐教授のことで調べたいことがあって。研究室、案内いただけないかしら」
「はい、わかりました」
「私、上村っていうんだけど。あなたたち、お名前は」
「
続けて、卒業後に研究室へ入る予定だった学生が答える。
「
「ありがとう、助かるわ」
そう言うと、沢田はお辞儀をして去っていった。北里は、「こちらです」と手招きするように建物に入っていく。上村は周囲を見渡した後、その後を追っていった。
2049年12月21日 火曜日 12時00分 神奈川県横浜市中区 某所
「さて……そろそろいいんじゃないですか、野矢さん」
静まり返る車内で、男は口を開いた。国道1号をまっすぐ、横浜市に入り少々道路も込みだしたようだ。
「兄さん、この人、協力しないかもね」
運転席の男が口を開いた。
「お前は心配するな。……野矢さん。そろそろアジトに着くので荷物の整理した後、猿田友弘の所へ向かいます。こちらは約束通り、息子さんを見せました。今度はあなたが約束を守る番だ」
「……あなたたち、兄弟だったのね」
「……猿田友彦は、どこですか」
男は振り向き、野矢に視線を向けながら投げかけた。声のトーンが下がり車内の空気を冷たくさせる。
「猿田くんを……どうするつもりなの」
「いい質問ですね。黙って返してくれるなら、多少のお仕置きくらいで済ませましょうか。あまり、面倒事にする時間もないので」
「……教えたら私は?」
「猿田友彦のところまで同行してもらいます。見つかったらその時点で解放だ。息子を助けにいくといい」
「……わかったわ、猿田くんは……」
渋滞を抜け、横浜の中心街へ車は向かう。車内では、野矢の言葉を聞いた男が携帯電話を取り出し、何やら誰かへ指示を出しているようだ。野矢は考えていた。猿田の居所だけが自分の利用価値であったはず。自分自身の身が本当に安全なのか、確信は持てずいた。考えても意味をなさないがこの異常な空間と状況から逃避するために、ただただ窓の外を眺めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます