第21話 11時16分、11時50分
2049年12月21日 火曜日 11時16分 神奈川県横浜市西区 横浜駅構内
行田は駅員室の中で、防犯カメラの映像を確認している。録音した会話の内容から、野矢美佐子が横浜に来ていると判明しているからだ。30分ほど閲覧し続けているが、未だその姿は見つけられていない。
「すみません、次のカメラ、アップにしてもらえますか」
行田は駅職員に指示し、別カメラをアップにする。カメラが多く、また行き交う人も相当数だ。一つ一つをアップにしなければ見落とす、そういった判断によるものである。しかし中々、野矢美佐子の姿を見つけ出すことはできない。
携帯電話を取り出し、目線は変えずに電話を掛ける。
「……横沢さんですか。何か見つかりましたか」
横沢は猿田が借りていたウィークリーマンションに向かっている。モンテネグロの近くであり、野矢美佐子との関連性を裏付けるものを探しているのだ。
『ええ、まだ途中ですが、ここには男女が生活していたと思われる痕跡がありますね。猿田は独身ですし、場所としても野矢美佐子で間違いないでしょう』
「そうですか、捜索、続けてください。先ほど、里井さんは東欧大学に、上村さんは兼修大学に向かうとの連絡がありました。野矢美佐子の息子である野矢優を追うとのことです」
『なるほど……行田さんは、野矢美佐子の行方、分かりましたか?』
「いえ、それがまだなんです。人が多いのでカメラ絞っているのですが、時間が掛かってしまいますね。仕方ないのですが……到着したことだけでも確認できれば、手掛かりにな……あ!すみません、映像止めてください!横沢さん、また後で!」
そう言いながら電話を切り、映像にかじり付く。
「間違いない……服装も一致、野矢美佐子だ」
行田はそのまま映像を追い、向かった方向を確認した。
「すみません、協力ありがとうございました」
行田は頭を下げて駅員室を出ると、携帯を開く。業務用で貸し出している携帯電話で、チャットグループに報告を入れる。
“野矢美佐子が横浜駅に到着したことをカメラ映像で確認。このまま足取りを追います”
「初めからこの機能使えばよかった……」
行田は独り言を呟きながら、野矢美佐子の足取りを追い、駅を出るのだった。
2049年12月21日 火曜日 11時50分 東京都千代田区 警視庁 地下二階
SIIの司令室には、増田、北原、飯田、ウィリアムズの四名がいる。
「北原君、飯田君と里井君の人物設定は出来上がったかな」
「ええ、90%くらい……あとは身分証を作成して終わりです。キャシーに服装の仕立てとアイテム関係は、お願いしてます」
「そうか、流石の仕事ぶりだ。それが終わったら、今日リーカーが参加する懇親会へ潜入する上原のバックアップ準備をお願いしたい。懇親会に行く前に、夕方SIIに来る予定だ」
その会話に横から飯田が入る。
「増田さん、そのバックアップ準備、完了してます。あとは、北原に引き継いでおきます。私は明日の準備を入念にやっておきたいので」
「飯田君、流石だ、ありがとう。現場に行くことを志願してくれて助かってしまっているが、本当に良いのか」
声のトーンが少し下がった。この場にいる全員に、増田の気遣いが伝わる。飯田は間髪入れずにそれに返事をした。
「ええ。本業は鑑識で、現場仕事ですからね。元々は現場の情報分析もやっていましたし、現場行くことは慣れてますよ」
「その経験が活かせないとは言わんが、今回はモノが違うだろう」
「分かってます。ただ、力になりたい。それだけですよ」
飯田は、増田の言葉の意味が分かっているのだ。そのまま続ける。
「里井は、若い。若さ故の荒さはあるが、鮮明な頭脳と抜きん出た運動神経、誰の目で見ても類まれな能力を持っている。彼は日本警察、そしてSIIの宝なんです。全力でサポートしますよ、彼の足を引っ張るようなことはしないつもりです。失礼します」
そう言って、飯田は司令室を出ていった。北原は、飯田が使用していたPCを覗き込む。上原のサポートに必要なシステムが完璧に組まれていた。
「気合い入ってるなあ飯田さん……」
小言のように呟いた北原の言葉を、増田は聞き逃さない。
「北原君、君は二人を、この司令室から最大限バックアップして欲しい。里井君や飯田君のような熱意のある優秀な警察官を、死なせるわけにはいかない」
「……はい。当然です。任せてください」
「ああ、任せるよ……二人とも、私も一度外に出る。御子橋さんに呼ばれていてね。よろしく頼む」
(……御子橋警視総監……!?)
増田はそう言いながら司令室を出ていった。増田の背中を見ながらウィリアムズと北原は顔を合わせる。
それもその筈、
またこれも当然だが、然るべき情報の共有は行なっているはずである。何しろ、今回は内閣総理大臣が狙われているのだ。ただ二人は計らずも、同時に疑問を持ったのだ。
なぜ、このタイミングで増田が呼ばれるのか、ということ。そしてなぜわざわざ警視総監に呼ばれたと言ったのか、だ。
この二人の直感にも似た疑念が後々大きな事件の火種になることは、今は誰も知る由も無い。
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