第17話 9時20分

2049年12月21日 火曜日 9時20分 東京都千代田区 警視庁 地下二階


 エレベーターの扉が開き、「会議室」へと向かう里井。会議室の前には、ウィリアムズが立っていた。


「キャシー、おはよう」


 ウィリアムズは声を掛けられ振り向く。その出立ちは、相変わらず美しいの一言だ、里井は心の中でそう呟いた。


「おはよう、孝太郎。捜査一課の事件と、こっちの案件が関連してるようね。報告、目を通したわ」

「ああ、色々厄介なことになってきたよ」


 二人はそう言いながら、部屋に入る。局長の増田、司令官の北原、飯田は既に着席していた。「おはようございます」と言って、昨日と同じ席に座る。


「上原君は少し遅れるそうだ。先に始めようか」


 増田はそう言うと、ウィリアムズが前に歩いていった。


「それではウィリアムズ君、お願いできるかな」

「ええ。まず、リーカーについて。和人が居所を絞り込んだわ。ただし、確度は70%。街中の防犯カメラ映像を対象に、リーカーが映ったものだけを一斉に抜きとって、その行動範囲から居所と可能性が高い位置を割り出しているの」


 そう言いながらリモコンを操作し、スクリーンに映し出す。


「候補は、3箇所。一つ目は帝国ホテル。ここでは昨日リーカー自身がホテル内のレストランに入る様子も確認されてる、わざわざわ別のホテルでディナーを楽しむとは考えにくいから、ここが最も確率が高いと見えるわ。二つ目は有楽町電気ビルディング。ここの一室に部下が出入りしていることが確認できてる。そうなると、帝国ホテルズはカモフラージュの可能性もある。三つ目はコンラッド東京。ここには、リーカーの愛人と呼ばれる女性が出入りしていることを確認したわ」


 そう言いながら、ウィリアムズは映している画像を切り替える。


「有楽町電気ビルディングに出入りしていたのは、部下の一人、ローラン・ケリー(Rolan Kerry)。彼は昨日の早朝、横浜港のカメラでも姿が確認されている。リーカーの腹心ね。コンラッド東京に出入りをしていたのは、この女性、ダイアナ・クロス(Diana Cross)。彼女はリーカーの愛人と、捜査機関が噂をする人物よ。実態は不明だけど、ほとんどの仕事で組んでいることは事実。愛人でなくても、ローランと併せて、この二人が信頼する仲間ってところのようね」


 二人の画像を、里井はまじまじと見つめる。二人とも、ファッションモデルと言われても容易に信じてしまうほど、スタイルが良く、端正な顔立ちだ。特にダイアナ・クロスについては、驚くほどの美人だ。


「二人とも、犯罪者には見えないですね」

「孝太郎、正確には二人とも犯罪者ではないわ。前科も無ければ、何の容疑もかけられていないから。リーカーと同じく、に守られているのよ」

「里井、この三箇所、本人と部下二人が出入りしたことからも、アルゴリズム上は、確率が全く同じなんだ。もしかすると、捜査機関を撹乱するための、罠かもしれない」


 北原がそう言うと、それに飯田が続く。


「リーカーの居所を掴んだとして、問題は取引がいつ行われるか、です。それを掴まないことには」


 飯田がそう言ったとき、モニターに上原の顔が映った。WEB上で会議に参加するようだ。


『みんなすまない、遅くなった。今、ちょうど飯田が言ったことが聞こえたが、それについて情報を掴んだぞ』

「上原、本当か」

『ああ、リーカーは、来日に合わせてオフィシャルの予定を組んでいたようだ。今日は経団連と経済産業省の幹部と懇談会の予定が入っている。同じ日に取引の予定を組むとは、考えにくい。そうなれば必然的に、明日22日、明後日23日のいずれかになるだろう。今回の取引が、爆破予告に関係しているのであれば、の話だがな』


 里井は話を聞きながら考えていた。上原は続ける。


『昨日、横浜港で再度調べていたんだが、モニターでの映像を見る限り、やはり荷物は爆薬で間違いないようだ。うちの、鳥咲が気づいてくれたよ』

「鳥咲君か、彼は優秀のようだな」

『ああ、もちろん事件のことは話していないが。私の気づかぬところに視点を持っている、優秀な男だ』

「それはそうと、さっきの話を軸に動くなら、遅くとも明日には潜入しなきゃいけないのでは?」


 二人の会話を遮り、飯田が言った。


「今日、懇談会の予定掴んでいるなら、その後を狙ってもいいと思うが」

「あとは名目ですよね、どう接触するか」


 北原が続く。それに対して、上原が言った。


『みんな、潜入について、何か案はあるか』


 皆、顔を見合わせた。情報を掴んだはいいが、肝心の接触方法について、どういう形を取るべきか、各自が決めかねていた。周知の通り、リーカーは危険な男であり、そのリスクは潜入する里井が負うこととなる。当然、思い付きで案は出せない。


「一つ、妙案が」


 皆が頭を抱える様子をよそに、里井は手を上げながら言った。彼には、既に考えがあるようだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る