第16話 8時45分
2049年12月21日 火曜日 8時45分 東京都千代田区 警視庁
現在の刑事部は、月曜日以外、朝礼を行わない。そして事件が解決、またはチーム編成が変わるまで、原則はそのチームに業務の裁量が任されることになる。そしてチームリーダーは毎朝、捜査第一課長に、進捗を報告するというルーティンが課せられている。
「詩恩さん、昨日はありがとうございました」
「本当に、感謝してよね。寒かったんだから」
「監視カメラデータ、SIIで分析させます」
「いいの?こっちの事案のこと調べさせても」
「関連していることが証明できたので、上原さんからも了解を得ることができました」
「そ、ならいいけど」
里井は、隣席の上村と会話を交わしていると、そこに横沢がやってきた。
「里井、猿田のことだけどな」
現在、行田が里井らのチームの事件について、課長の室山に報告を行っていた。それが終わり次第、打ち合わせを行う予定だ。
「事件があったモンテネグロの近くに、半年前よりウィークリーマンションを借りてることがわかったぞ。昨日、あの後粘って調べ続けたら、契約の明細が出てきたんだ」
「お手柄じゃないですか、これで野矢美佐子との関連性はさらに強くなりましたね」
「今日、さっそく行こうと思うが、お前も行くか」
「いや、私は別の角度から色々調べたいので。横沢さんに任せますよ」
話をしていると、行田が戻ってくる。
「みなさん、おはようございます。昨日はお疲れ様でした。このまま、ここで簡単に打ち合わせましょうか」
近くの空いている席から椅子を持ってきて、里井を囲むように座った。
「昨日、猿田の自宅から、ウィークリーマンションの契約に関する明細書が出てきました。書類を見る限り、半年前から借りているようです。そして場所は、狛江市の、事件現場であるモンテネグロの近くです。横沢さんに、さっそく行ってもらおうと思います。里井さん、上村さんそちらは進展ありますか」
「はい、通話記録などから、全体像はおおよそ掴むことができました。そして犯人は、猿田と見て間違いないでしょう。物的証拠はありませんがね」
里井は続ける。
「猿田自身を探すより、野矢美佐子を見つける方が手っ取り早いと思います。野矢美佐子は猿田の居所を知っている。そして、野矢が荷物の持ち主に会いに横浜へ行っているとすれば、野矢は間違いなく猿田のところへ案内することになるでしょう。そうなれば、猿田が危険です」
「けど、野矢は息子を人質に取られているだろ?そいつを救わない限り、野矢を止めることはできないだろ」
横沢が言う。その通りだ。野矢美佐子を止めるには、人質の無事が必要となる。
「この後、私はもう一度横浜に向かい、駅のカメラなどから野矢美佐子の足取りを追います。里井さんは人質の情報を追ってください。上村さんは、昨日手に入れたカメラのデータ検証、お願いします」
行田の言葉に全員頷くと、それぞれの席に戻った。
「里井、カメラのデータ検証、SIIでやってくれるんでしょ?私、どうしよう」
上村は小声で里井に話しかける。里井は、笑みを浮かべ、答える。
「大丈夫です。詩恩さんにやって欲しいこと、いくらでもありますから」
里井はそう言いながら、携帯電話の着信に気付き、ポケットから取り出す。ショートメッセージのようだ。
『9時30分。緊急会議を行う。会議室にて』
シンプルなメッセージを読み、すぐに携帯をしまう。上村はその様子を、眺めながら何か言いたそうにしている。
「詩恩さん、呼び出しです。すぐ、戻ります」
里井はそう言い、立ち上がった。
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