第14話 21時48分、22時10分

2049年12月20日 月曜日 21時48分 神奈川県横浜市 横浜港


「上原本部長、これを見てください」


 今朝、警備員が二名殺害された現場に、上原は再度足を運んでいた。


「ここです。漁船から運び入れているこの荷物、これはやはりただの銃器じゃないですよ。緩衝材がふんだんに使われている・・・梱包材も摩擦が起きない素材を選んでいます。きっとこれは、爆薬です」


 警備室で監視カメラ映像を見ながらそう言ったのは、鳥咲浩二とりさきこうじだ。神奈川県警の中で、上原が唯一、SIIと同等の信頼を置く人間だ。三十歳の若さながら、高い能力が認められ、上原から直々の命により手助けをしている。


「モニターの映像だけで、そこまで分かるか」


 上原は感心していた。リーカー捜索の足取りを掴むべく情報集めを自身でも行っていたのだが、捜索の助けになると思い、鳥咲を同行させてみた。監視カメラの映像だけだが、凡人とは読み取れる情報のレベルが違う。


「この今朝の件、私と関わった数名以外には伏せるよう指示がありましたし、これ、かなり大規模な事件に関連しているんじゃないですか?」


 指摘の通りであるものの、SIIの案件を部外者に他言はできない。ましてや、上原はSIIの「指揮官」、指揮を執る人間だ。


「今はまだ詳しく話せないんだ。理解してくれ。ただ君の考察は参考になる。同行させて正解だったよ」


 上原がそう言うと、何か腑に落ちたのか、頷きながらモニターに顔を戻す鳥咲であった。


2049年12月20日 月曜日 22時10分 東京都新宿区 西武新宿駅前


「あんたね、おっそいわよ!いつまで待たせる気よ!」


 規制線が外れ、平穏を取り戻していた広場の中心で、上村は一人、電話に向かい興奮を露わにしていた。里井の指示通り、一人でプリンセスホテル前で、長らく待機していたのだった。


『すみません、詩恩さん。特定に少し時間が掛かりまして』

「いいけど・・・ちゃんと成果はあったんでしょうね?_」

『もちろんです。色々わかりました。そしてこれから詩恩さんに協力いただくことで、さらにこっちが有利に事を運べます』

「有利?」

『ええ、いいですか。防犯カメラ映像では、男が広場と道路を挟んで反対側、目線の高さからすると二階付近に、数秒じっと見たまま電話をしています。その後も、一度、同じ方向を振り返っているんです。間違いなく、そこから見える位置に仲間がいたはずです。公衆電話に電話をかけたときも、そこにいたはず。道路挟んで反対側、二階。その方向には、何がありますか?』


 上村は里井の声を聞きながら、その方向をじっと見つめる。


「居酒屋があってパチンコ屋があって・・・二階建てっていうとマクドナルドが・・・あ!」

『どうしました?』


 上村はマクドナルドの二階にいる人と目が合った。そこで、ある事に気がつく。


「全然気づかなかったけど・・・あそこの窓際の席からこの広場、監視するには絶好の位置だわ。というか広場全体を見渡すのに、あそこ以上の場所はないわよ」


 上村がそう言うと、少し間が空いた。電話口で、何かを確認しているのだろう。


『……それを聞けて安心しました。そこで間違いないでしょう。帰る前に、マクドナルドの防犯カメラ映像、データをもらってきてくれますか?』

「ええ、わかったわ」


 上村は電話を切る。里井の読みが、高確率で当たることを彼女は知っている。彼の、一番の理解者と言っていい。しかし上村は、捜査一課が追っているこの事件とSIIが追う事件が絡み合っている可能性が高いこと、これが気掛かりで仕方なかった。

 SIIが取り扱う事案が重大なものであることは、よく知っている。だが、今回はまた一段と事が大きくなっていく気がしてならない。どうしても、現状を前向きに捉えられずにいられないのだ。

 そして彼女の予感が的中するように、明日も事態は動くこととなる・・・。

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