第13話 21時00分
2049年12月20日 月曜日 21時00分 東京都千代田区 警視庁 地下二階
「・・・そこです、ストップ」
里井は、警視庁に戻り、SIIの司令室にいた。ここでは司令官の飯田が、里井の要求に応えていたところだ。もう一人の司令官である北原はその隣で、リーカー特定のためのアルゴリズム構築を進めていた。
「いま公衆電話から出て何かを投げつけた、この男。特定したいのですが、お願いできますか」
「任せて。画像が粗いから、少し時間欲しいな」
「お願いします」
プリンセスホテル前の広場、街灯に設置された防犯カメラが公衆電話を映していることに気づき、飯田がハッキングした映像を見ていた。
「北原、リーカーの方は」
「中々、映像が拾えないんだよ。おかげで俺の位置特定アルゴリズムの精度が上がらなくてな。意外と慎重に行動しているんだろうよ。もう少し時間掛かりそうだ」
「じゃあちょっと頼みが」
またかよ、という顔をする北原の肩を軽く叩き、隣に座る。
「RTS、だ」
「RTS?何だそりゃ」
「知らないから、調べて欲しいんだ」
「何だよそりゃ、食べ物か?団体か?スポーツか?」
「さあ。これまで得た情報をまとめると、荷物の預かりサービスを行う会社・・・ってところか。会社っていうほど、まともな組織ではなさそうだけどな」
「それが、捜査一課で追っている事件と関係あるのか?」
「ああ、おそらく」
北原は、アルゴリズムを動かすモニターから離れ、別のモニター前に移動する。ブラインドタッチで情報を入力していく。
「で、さっき調べた猿田って奴が、追ってる事件の犯人なのか?」
「間違いない。さっき送ってくれた住所、同じチームの行田警部に転送したから、もうすぐ接触できるはずだ」
「こっちの案件と関係あると見てるようだけど・・・違ったら上原さんにドヤされるぞ、お前」
里井は無言で答える。
「・・・っと。FBIの情報システムに詳しく載ってるな。・・・何だこれは」
北原は目を見開く。里井は後ろから情報を映し出したモニターを見つめる。
「ReeKer Trunk Service・・・略してRTS。つまりリーカーが運営するトランクサービスってことか。なるほどね」
「・・・おいおい、まじかよ。ヒットしたぞ。さっき言っていた野矢美佐子。日本でのブローカーで間違いない。パートナーは猿田だ。フランチャイズ形式で、互いに出資してRTSの名前を使ってたってことか・・・まさかダボス・リーカーとそっちの事件、関係があるとは。お前、ここまで読んでたのか」
里井は無言でポケットから携帯電話を取り出す。電話は行田からだ。
「里井です」
『行田です。たった今、猿田の自宅に来ましたが、不在のようです。電気もメーターが動いていないですね。近所の方に聞き込みしたところ、数ヶ月前から、猿田のことは全く見ていないと』
「そうですか・・・やはり野矢美佐子、彼女を見つけないと」
『とりあえず以上です。そちらは何かわかりましたか』
「野矢美佐子が録音した通話の記録で、RTSって言ってましたよね?あれは、個人で経営するトランクサービス会社のことでした。そして野矢美佐子と猿田、二人は事業の共同経営者、パートナーのようですね。儲けを独り占めすることが目的で、猿田が一人で持ち出した可能性が、濃厚になってきました」
『なるほど・・・何故、野矢誠を殺す必要があったのでしょう』
「計画外のことだったかもしれませんね。計画実行中に見つかってしまい、殺さざるを得なかった、とか。野矢誠もRTSの当事者だったか、もっとヤバい情報を知ってしまったか、とか・・・色々考えられます」
『そうですね・・・とりあえず自宅にはいないですし、自宅の中からも何も出てきません。今日は引き上げます。里井さん、上村さんも切り上げてください』
「了解です、失礼します」
里井は電話を切ると、立ち上がった。飯田が、画像処理を終え、リストとの照合を始めたようだ。
「飯田さん、どうですか」
「ええ、出ましたよ。これですね」
里井はモニターを見つめる。髪型、目つき、服装、持ち物、煙草。様々な要素を見落とさないよう見つめる。飯田が情報を読み上げる。
「
「この男、ボスではないですね。指示している男は別にいる」
里井は断言するように言った。このとき、あることを思い付く。
「北原、お前確か、音声処理が得意分野だったよな?」
北原は得意気に立ち上がり、笑みを浮かべながら語り出す。
「音声のことなら、飯田さんにも負けないよ。どんな雑音も排除して、正確に場所を特定する自信があるね」
それを聞いた飯田は首を傾げる。里井はその様子を見ながら、北原に答える。
「例えば、変声機を使用した声が、どいつかって犯罪者リストから特定できるか?」
北原は顔を歪める。
「それはお前、変声機を取り除くと素材が粗くなるから、多数から照合する作業には向かないというか、そもそも音声サンプルがない限りはやりようが・・・」
里井と飯田は目を合わせ、込み上げる笑いを堪える。自信がないのか俯く北原の声がだんだん小さくなり語尾が聴き取れない。
「じゃあ」
その声に北原は顔を上げる。それを確認し、里井は続ける。
「変声機を使用した声が、別の音声と同一人物であるかどうかを確認するとしたら、どうだ」
「・・・同じ人物の声か、特定すればいいんだろ。それなら、できるさ。音声のサンプルさえあれば」
そう言う北原に、里井はある物を投げて渡す。
「USBメモリ?」
「その中に野矢美沙子と脅迫主が公衆電話で話した時の音声記録が入ってる。そしてもう一個が」
里井はそう言いながら、携帯電話を投げる。
「それは野矢美佐子がプリンセスホテルに残していった携帯電話。呼び出しを受けたときの音声記録が、録音されてたんだ」
北原は受け取った携帯電話に表示されている音声を再生する。
『野矢美佐子か、よく聞け。私は、お前が預かっていた荷物の持ち主だ。なぜ連絡したか、わかるな?私は〜』
北原は音声をストップする。そして受け取ったUSBメモリを持ちながら、続ける。
「なるほど。声変わりの時期なのね。ということはこっちも同じか?」
「ああ。そっちも変声機が使用されているが、その二つは同一人物なはずだ。それが分かれば、安藤博との照合ができる。その二つの電話の声が、同一人物であるかどうかを、確認してくれ」
「そういうことか、了解」
そう言いながらUBSをパソコンに差し、早速作業に入っていった。
「この安藤って男、どこから現れたんだろうな」
里井の後ろで防犯カメラの映像を確認していた飯田は、広場の映像を肘をつきながら眺めており、そう呟いた。里井はその声に反応し、振り返って同じモニターを見る。飯田は早送りで、画面に入ってくるところから、公衆電話に向かい、物を投げつけて、立ち去るところまでの映像を繰り返し流していた。
「入ってきた角度からすると、ホテルの裏側かな」
飯田の見解をよそに、里井はあることに気が付く。
「・・・飯田さん、ちょっと巻き戻してもらえますか?」
「え?じゃあ等倍で戻そうか・・・」
再生スピードが等倍になり巻き戻っていく。
「ストップ!」
飯田は映像を止める。里井は口角を上げずにはいられなかった。
「・・・見つけたぞ」
それは安藤が電話をしながら、ある方向に目線を上げる姿だ。その映像を見ながら里井は携帯電話を取り出し、ある人物に電話を掛けた。
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