第三話 職質

 都のとあるところ


 その場所は、地下にあった。


 六人程が、車座になって座っている。


 中央にともされた、あかりに浮かぶ何者の影がいった。


「かのものは、吐いたか?」というのだ。


 とある男が、生気のない声でいう。


「いいえ、まだ吐きませぬ」というのだ。


 その灯りに映った何者かの影が、再び声を出す。


「例のものは、仕掛けたのであろうな?」といった。


 他の男が答えた、生気のある声で。


「確かに、仕掛けました。そのもの、の娘に……」といった。


 その灯りに映った何者かの影が、じょうぜつになる。


「大切なものであればあるほど、呪を解こうと躍起やっきになるはずだ。そこから、れるものをいただこうか」といった。


 そして、さらに続ける。


「鵺塚の話は、撒いてあろうな」といった。


 別の女が、答えた。


「はい確かに、都中に撒いてあります。しかし、あんなものでいいのでしょうか? あれでは我らが、みすみす動いているぞという様なものだと思うのですが……」という。


 その灯りに映った何者かの影が、笑いながら声を出した。


「ハッハッハ、それでよいのよ。精々検非違使には、あること無いこと吹聴ふいちょうして動き回らせ疲れてもらおうか……我々が勝利をつかむのだ」と高らかにいった。


 さらに、続ける。


「他の組織が成し得なかったことが、今我々の手の内にあるのだ。千載一遇の、勝機というヤツがな……」と影が揺らめいた。


 そして一際ひときわ大きく、影が揺れる。


 さらに、話しだした。


「で、本命の塚のほうはどうじゃ?」と影が揺らぎながら聞いた。


 別の男とも女ともつかぬ、男装の麗人れいじんが答えた。


「捜索のほうは、まだ終わってはおりませぬ。人手を掛けられないの、と例の鵺塚の噂のほうで警官に動きがありまして。あまりかんばしくない、成果となっております」というのだ。


 その灯りに映った何者かの影が、再び声を出した。


「警官だと!? 検非違使では無いのか?」といった。


 その男装の麗人が、答えた。


「はい、間違えようがありません。確かに、警官でした」といった。


 そして、続ける。


「都中には警官が多く出ており、迂闊うかつな動きをさせることができません。それほどまでに、要所要所に警官が配置されております」ともいう。


 その灯りに映った何者かの影が、声を絞り出した。


やぶつついたか……。だが我々に、引くという言葉はない。必ず本命の塚を、探し出して見せよ」といった。


 男装の麗人が、深々とこうべをその影にれながらいった。


「分かりました。我らの悲願、必ずや……」といった。


 その灯りに映った何者かの影が、その言葉を聞き届けたのかフッと灯りとともに消えた。



 都/街路 京志郎警部・部下の警官


 私服姿の男女が、集まって何か話をしている。


 男二人は和装であり、時代の流れを感じさせられる。


 女二人は洋装である。


「あの男女、怪しくありませんか?」と部下の警官がいった。


 街路ではあるが他のものは通り過ぎていく中、その男女の周囲だけ不思議と誰もぶつかることなく街路の路肩で話し込んでいる。


 しかも誰も外側に向いていない、逆に聞かれたら困るといった風で周囲を気にするふうでもなく円陣を組んで密になって話し込んでいる。


 まるで隠形の術のようだ、と俺はそう思った。


「分かった周囲を囲む、逃がさないようにな。君は職質を二人でかけてくれ」と俺は部下に二人で職質を掛けろといった。


 そして俺は、風下に回り込んで部下と一緒に構えた。


 それぞれの東西の方位に、警官二人ずつである。


 署長が檄を飛ばしてくれたからできる、数の暴力であった。


 職質を部下がかけた瞬間、何か黒い霧のようなモノを和装の男二人が警官に向かって吐いた。


 そして東西に分かれ、逃げようとする。


 吐かれたほうの警官二人は、倒れてしまっている。


 逃すわけにはいかない、俺はそう強く思った。

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