第十四章 死人憑

第一話 死人憑

 七条坊門小道と朱雀大路が交わる場所 


 馬車との交通事故により死人が出た、それだけで終わる話なら普通の事故だったのだが寄りによって死人憑きになったのである。


 しかも死人は眉目秀麗といわれた、都で一・二を争う男だった。


 死人憑きになったものは学者の家系で腕っぷしはそんなに無いとのことであったが、憑いたものが悪かったのか剛力に変化しておりとても家人が束になっても敵わず。


 猛威を振るって歩き回り、飯や酒をカッ喰らっていった。


 当然警官も動員されたが、死人であるため手に負えないと判断されてしまい。


 即、検非違使案件となったが、その男にとって付いてはいた。


 だが朱雀大路を練り歩き、羅生門まで歩き続けようとした結果取り囲まれた。


 取り囲んだのは北は六条大路から南は九条大路までの範囲で、西は西大宮大路、東は大宮大路までの範囲を、預かる組が“り組”という一番経験の無いものたちであった。


 十人組で、力は揃っているはずなのだが運の悪いことに、捕物として成立せず。


 人々に一笑に付される、始末であった。


 これをよしとせず、十人組の意地で囲んでみたものの力で敵わず、叩き伏せられてしまった。


 術も使えぬ半端者という、ものたちであったがためにである。


 ただ人々は官憲の手のものだろう程度にしか思っておらず、検非違使の名は出てこなかったのが検非違使にとって唯一の救いとなった。


 斬ろうとも前進し続け、刺そうとも気にした様子でなくそのまま押し切られ、朱雀大路を練り歩かせてしまったのである。


 組という制度が生んだ、抜け穴いや落とし穴の様なものであった。


 しかもそのまま羅生門に居座り続け、女を見るでなく、男を見るでもなく、延々と湯水のように酒瓶から酒を喰らい続け、飯を漁り続けた。


 不思議なことに、酒瓶からは湯水のごとく酒が出るのである。


 神でも付いたのかと思ってみていると、春ではあったのだが日が過ぎるとともに次第に体の腐敗が進み腐臭がするようになり悪臭が鼻を突くようになった。


 目や口からは腐汁が流れ始め、とても見ていられぬようになったが羅生門であるため。


 目も当てられぬと東寺や西寺から僧が出て来て、祈祷をするまでに至ったが全く効果が無かった。


 それどころか、供え物に手を出し腐り落ちる体で飯を求めて騒ぎ立て羅生門で暴れまわったため羅生門に人が寄り付かなくなるという事態が発生した。


 他の組では手が出せないわけでは無いが、“り組”が意地を張るので他の組では立ち入れないという状況が続いた。


 二週を過ぎて片が付かなかったがため“い組”の組長と配下三名が大内裏内の天皇様から直接使命を受け、急行し事に当たった。


 夜半から夜更けまでに、結界の中で掃討戦が行われ“り組”が手を出せないところで、片が付き速やかに遺体を家人に引き渡した。


 のであった、“い組”の活躍により、即ではないが羅生門の平和は護られた。



 溜まり場 美空・に組の皆


「大惨事でしたね、自らの力量をわきまえないものが居るということを、普段会合に出てこない、“い組”は思い知ったと思いますが」と薫さんがいった。


「私たちが行っても、力になれたかどうか分からんがな」と吹雪さんがいった。


「滅ぼせはしたんじゃないかのう」とみことちゃんがいった。


「でもよう、あの部をわきまえない“り組”だぜ?」と紅葉さんがいう。


「まだ何かあるんじゃねえか?」とも続けた。


「一つことが終わったということで、よいのではないですか? 姫君も多分語られたこと、だと思いますし」と私はいう。


「二つ目があったら、驚きですけれども」と私はいった。


「二つめか、これで懲りてくれると会合がやりやすくなるんだが」と吹雪さんがいった。


「会合ですか? 今度ご一緒しても?」と麻美さんがいった。


「組長だけしか行けないんだ、残念だが」と吹雪さんが遮る。


「それなら仕方ないですね、その強い鼻っ柱に小銃でも突き付けて見たかったのですけれども」と過激発言を麻美さんはいった。


「六条大路と大宮大路が交差する場所で、事故でも起きたら見に行ってみるか? しゃしゃり、出て来ると思うぞ?」と吹雪さんがいう。


「“に組”・“へ組”・“ち組”・“り組”の陣が、交差するところでもあるからな。以前にも、今の“り組”があったころに一悶着会合であったからな」と吹雪さんは思い出しているようだった。


 確か『火炎の壺』の頃の話、だったように思えた。

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