第三話 飛縁魔+抜け首

 御霊神宮 美空


 私は社務所に向かう途中の参道に居た、夕刻も近いので人はまばらだ。


 少したって社務所が見えた時、私の背後で羽ばたく音が聞こえた、何事かと思い振り向くと、いつぞや飛んできた真っ白い鳩が、左足に銀色の通信筒を括り付け飛んできていた。


 そして、私の左肩目掛け降り立つ。


 どうやら彼か彼女かの、定位置になってしまったようだ。


 鳩の胸を突くと、“くるっぽー”といいながら左側を見せて来た。


 通信筒からふみを取り出し眺めた、急ぎではないが急に該当する案件だ。


 神社の長にことを話すため、社務所に急ぐ。


 そして伝えると、みことちゃんにも伝えて欲しい旨をいって、社務所をでて溜まり場に向かった。



 溜まり場 美空・吹雪・薫・京志郎警部


 溜まり場に行くと、吹雪さんが難しそうな顔で待っていた。


 左肩の鳩は相変わらず、私の左肩に乗ったまま返信を寄こせ、といわんばかりに堂々としている。


 つまり鳩を乗せたまま、戦わなくてはならないらしい、文を書くのは全て終わった後であろう。


 溜まり場の時計が、十六時を指していた。


 まず、吹雪さんに通信筒の中にあった文を渡した。


「何だって! 妖魔あやかしの共闘だと!」と吹雪さんが叫んだ。


「前代未聞かもしれないな、妖魔が共闘するなんて。使役では無いらしい」とも呟かれた。



 溜まり場 美空・に組の皆・京志郎警部


 十七時半になった、いつも通りみんな揃った。


 麻美さんが、京志郎警部と名刺交換をしている。


 それが終わるのを見届けると、吹雪さんは話始めた。


 これまでの経緯と詳しい内容である。


 その間に、京志郎警部は電話機を借りて警察署に連絡を入れ御者と馬車を呼んだ。


「今回の相手は二種、抜け首と飛縁魔だ。抜け首のほうは、数が多いらしい。麻美は散弾銃で、対処してくれ」と吹雪さんがいった。


「分かりました。ウィンチェスターM1897を使います。シュミット・ルビンM1897は、背中に背負います」と麻美さんがいった。


 どうやら長物、二刀流らしい。



 四条大路と東京極大路の交差点 美空・鳩・に組の皆・京志郎警部


飛縁魔の外見は菩薩のように美しい女性でありながら夜叉のように恐ろしく、この姿に魅入った男の心を迷わせて血や生気を吸い取るとされている。


 それくらいの美女が、交差点に進入してきた。


「かかろうか、頼む」と、吹雪さんにいわれた。


 私は軽く舞い『隔離世』を、交差点の範囲全てに拡大して展開した。


 前衛・後衛に分かれ、前衛が女の三メートルほどに踏み込んだ時だった。


 空中から、抜け首が突きかかってきた。


 本日の前衛・後衛の配置は私と鳩が最後衛、後衛に吹雪さんと京志郎警部とみことちゃん、中衛に麻美さん、前衛に薫さんと紅葉さんという配置だ。


 麻美さんがウィンチェスターM1897散弾銃を、上空の抜け首に向けてぶっ放した。


 ズドンと音がする、そういう意味では拳銃というものとは違うらしい。


 前衛が抜け首に絡まれて女に接近できない以上、こちらで飛縁魔に手を出すしかない。


 私も神符を五枚用意する、途端に慌て始める女、但し待ってやらない、神符を投げ女の周囲に五芒星の位置に突き立てる、そして『神符霊縛』と唱えてやる。


 女が霊縛に抗うが、簡単に抗えるものでは無く、動きは止まった。


 抜け首の数は十とかなり多い、だが先に飛縁魔を潰してしまえれば少しは楽になるハズである。


 そう思った、次の瞬間みことちゃんの神術が女に決まった『烈火』だ。


 だがその一撃位では耐えられてしまうらしい、ならと思い私は対象を数多くとるべく『怒雷』を唱えた。


 虎の吠え声が周囲に響き渡り、抜け首でダメージのあるもの二体が宙から地にかけて落ちて来たようだった。


 だがまだ、飛縁魔は憤怒の形相でこちらを見てきた。


 まだ、余裕があるらしい。


 強い怨念を持つ飛縁魔は術に耐性があるのかもしれない、そう思った。


 吹雪さんと京志郎警部は抜け首を相手にしていたが、途中かららちが明かないと判断したのか目標を飛縁魔に変えた。


 その対応で間違ってはいなかったのだ、後衛で全力で持って飛縁魔を捻じ伏せに掛かった。


 徐々に飛縁魔は弱っていき、倒れ伏し恨めしそうに消えていった。


 最終的に、抜け首も前衛に蹴散らされ宙の高いところに逃げた抜け首二体を残して消滅した。


 その抜け首二体も『烈火』の神術と銀の拳銃弾の前に、地に落ち消滅したのであった。


「問題ないようだな、皆無事か?」と吹雪さんがいった。


 皆から、特に問題はないなどの返答が帰った。


 私も「問題はありません」と答えた。


 吹雪さんがOKサインを出した。


 私は軽く舞って『隔離世』を閉じた、漆黒に染まって一部が夜更けの光を吸収し尽くすような空と、大路の交差点であるため周囲の喧騒が戻ってくる。


 私は文に“依頼完遂”の文字を書き通信筒に入れた。


 だがそれを確認した真っ白い鳩が、“くるっぽー”と一言いったが、夜更けの空には飛び立たなかった。


 私たちは京志郎警部が隣に座る御者の操る馬車で、溜まり場に送られたのであった。


 その後各部屋に戻り、私は寝ようと思ったが、鳩に止まり木の代わりを用意してやることにした。


 そして就寝し、夜明けを迎えた。


 私は窓を開けて、夜明けを確認した。


 夜明けを確認した真っ白い鳩が、“くるっぽー”と一言いうと、今度こそ夜明けの空に飛び立った。

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