第二話 飛ぶもの

 都外区 現場 京志郎警部


 警察も聞屋も、現場百遍というのは変わらないらしい。


 俺だけが現場を何遍も見ているのかと思ったら、警官ではないヤツが現場を行ったり来たりしていることが判明した。


 だが今現場は封鎖されているわけでは無い、規制線は解かれ往来に戻ってしまった後なのだ。


 不意に影が差した、こんなところにひさしや軒など無いはずだと思って上を見た。


 一瞬だが顔が、飛んでいたのが見えた。


 見間違いではない、人の顔にしか見えなかった。


 強いて特徴を上げるなら、首が長かったことくらいか?


 それの一回だけだったが、そんなものが見えた。


 その時署長がいっていた、言葉を思い出した。


『軽く触れちょるだけじゃ……』と。



 風祭探偵社 吹雪・京志郎警部


「で、顔と首が飛んでいるのを見た? と?」と私はいった。


 波賀京志郎警部から、珍しい話が聞けた。


「ええ、その……」と少しいいにくそうだったが、「妖魔あやかしではないかと思いまして」とヒソヒソ声で話す京志郎警部。


 ウチの所員を気にしているようであったので、たまり場に連れて行くことにした。



 溜まり場 薫・吹雪・京志郎警部


「あ、警部さんいらっしゃい」と私はいった。


 吹雪さんはともかく、波賀京志郎警部が溜まり場に来るのは、いつもはお仕事の時だけだからだ。


 吹雪さんが、話し出した。


 内容を聞くだに、抜け首かろくろ首ではないかと思えてきた。


 だが、私の見たものとは違う。


 そう思った、私の見たものは鬼の形相をした小綺麗な女だったのだから。


「それは抜け首か、ろくろ首ではないかしら? でも私が見た、怪しいものとは違うなあ」と私はいった。


「抜け首か……、この辺で出るという噂は聞いたことはないな」と一旦吹雪さんが、切って。


「で、紅葉君は?」と吹雪さんがいう。


「あの子は、補講だと思います。あまり躱すのが、上手くないから」と伝えた。


「見た怪しいものっていうのは?」と聞かれたので、私は「妙に小綺麗な女のヒトだったけど、顔は憤怒の形相だったの。人ではない、みたいに見えた」と正直に答えた。


「それは確かに違うな、首巻はしてなかったんだろう?」と吹雪さんに問われた。


「首巻はしてなかった、と思います。抜け首特有の線ですね」と私は、逆に聞き返した。


「そうだ。あの特有の線は、隠しようがないからな。別件か?」と吹雪さんはいった。


「別件ですか? でも現場で見たんですが?」と京志郎警部がいう。


「血吸いの現場か?」と吹雪さんが聞く。


「ええ、その通りです。現場百遍は、捜査の基本ですから」と神妙な面持ちで答えた京志郎警部がいた。


「二件目の……」とも呟く。


「では一件目は?」と吹雪さんが聞く。


「一件目では、見ませんでした。現場百遍というほど見れてません、でしたけれども」と受け答えする京志郎警部。


「一件目と二件目が、別の事件である可能性は?」と私は聞いていた。


「残念ながら一件目と二件目の被害者は、知り合いの可能性が出てきました。一緒にいるところを、見たものが居るんです」と京志郎警部はいった。


「一件目と二件目が違う組の対応場所なら、あるいは距離が離れていれば。偶然かもしれない、で済ませられたんだがな」と吹雪さんがいった。


「一件目も二件目も同じ組な上に、現場も近い。しかも、外区だ」ともいう。


「妖魔って競合、いいえ協力するのでしたっけ?」と私は呟いた。


「遺体に、奪い合われたような跡はなかったんだよな?」と吹雪さんが聞いた。


「血が一滴残らず吸われているのと、生気を失っているのと両方ですね。と監察医が言っておりました」と京志郎警部が答えてくれた。


「抜け首だけなら、血は分かるんだが。生気って? どんな感じのヤツだ?」と吹雪さんが聞いた。


「生気が無いの、生気ですよ」と京志郎警部は答える。


「私は最初、飛縁魔ひのえんまかと思ったんだ。ソイツなら、生気も対象にするはずだ。だが抜け首は、別件のような気はするが……」と吹雪さんは、考え込んでしまった。

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