第十三章 吸血種

第一話 躯

 都の端


 都の端で死体が出た、それも血を一滴残らず抜かれたような死体であったそうだ。


 警察の手で検分処理されたが、聞屋ブンヤが割って入って場が一時騒然としたようであった。


 こってり絞られたはずではあったが、その聞屋が記事に書いてしまったのである。


『血吸い現る、男性犠牲に……』と。


 よって都に不吉な噂が流れたのであった。



 風祭探偵社 吹雪


 その日新聞を読んでいた、秋山さんがいった。


「物騒な事件ですね、吸血種ですか」と。


「信憑性に欠ける話だが、吸血種といえばいないわけでもないよな飛縁魔ひのえんまとか」と私がいうと。


「脅しっこなしっすよ、俺がその手の話に弱いのはご存知でしょう」と秋山さんがいった。


「まあこの盟治の世になって、その手の話はどこかへ消え去ったようだがな」と私はいって繕っておくことを忘れない。


 聞屋の腕次第だが、下手に書き立てられても大変なことにしかならないのだ。


 実質対応するのは、どこかの検非違使の組なのだ。


 今回は端なので、外区を担当する組が、対応するはずである。



 御霊神宮 みこと


 妙に小綺麗な、女がおる。


 明らかに目立つ奴じゃ、じゃがこういう時に限って美空はおらんのじゃ。


 野弧や何かでなければ、いいのじゃが。


 野弧であれば結界によって弾かれるはずじゃから、野弧ではないのじゃろう。


 じゃがアレは人の美しさではない、と思うのじゃ。


 ふと目を離した隙に、どこかに行ってしまいおった。


 祟りや付き物でないと、いいのじゃが。



 鳳高等女学院 薫


 凄く綺麗な、女性がいる。


 ただ表情はどちらかといえば、憤怒の形相だ。


 和装であり時代がかった、装束であるといえるであろう。


 ずっとこちらを向いているわけでは無いが、野弧だろうか? それにしては妙に小綺麗すぎる。


 そう、感じた。


 だが授業が始まったので、そちらを見ていられなくなって気が付いたら消えていた。



 警察署署長室 京志郎警部


「この頃は不可解な事件が多いが、京志郎は何故かわかるか?」と署長がいった。


「いいえ、私には分かりかねます」と俺はいった。


「歯に衣を着せんでもええ、ワシには何となくわかる。お前が歯に衣着せとることが、ようわかる」と署長にいわれた。


「しかし、何故不可解な事件が起こるのか俺には分かりません」と俺はいい直した。


「まだこの世の中には分かって無いことが、ぎょうさんあるんだ。ワシらはそれに軽く触れちょるだけじゃ」と署長はいいながら葉巻に火をつけた。


 葉巻の先から、少し細い煙の線が立ち上る。


 まるでこの先を暗示するかのように、ゆらゆらと揺れた。



 都の外区


 都の外区とはいえ、建物が無い場所はない。


 それほど都は、発展しているのだ。


 ただ外区というものになると、夜は寂しく通りにはヒトがいないことも多い。


 そして当然だがガス灯はまだ配されておらず、夜の闇も濃い。


 結界が張られているのか、ヒトの声も通らぬ路地でまた一人の命が消えた。


 そして朝になって、事件は発覚する。


 犠牲になった者は、最初に逝った者の仲間であった。


 いわゆるワルい者たちで、五人組でよくうろついている者たちであったという。



 風祭探偵社 吹雪


 二人目の犠牲者が出た、外区の組では荷が勝ちすぎたのだろうか?


 そう思わざるを得なかった、確か“る組”の担当だった場所だ。


 丁度我々の担当する、東京極大路の六条大路から三条大路までの範囲が被っている。


 いったほうがいいか? しかしまだ姫からのお沙汰が無い。


 組同士が互いに牽制するのはした方がいい、そう思ってあきらめた。


 “る組”には符術使いの術士がいたはずだが、探し切れてないのだろう。


 範囲的にいえば、“ろ組”も縦筋はおなじ東京極大路で三条大路から一条大路までの範囲が被っている場所であるはずだ。


 “ろ組”組長の安倍上総かずさも、苦い思いをしているに違いない。

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