第八話 混乱

 白根医院裏 薫・に組の皆(みこと以外)


「なぜ左衛門が……」と、女性がいう「さっきの男とは別ですね」と、私は聞いた。


「さっきの男は行きずりの男でしたが、左衛門は病院の厨房勤めの男です。あんなことをするような者では無いのですが」とその人はいった。


 再度『隔離世』が、展開される「この者ただならぬ気配がします、悪魔憑きのような感じが」と美空さんがいった。


「憑かれている! ならばこれで!」と曼荼羅マントラを唱えた。


 直後! 青い炎を背後から噴き上げる男、ひとしきり燃え終わった後はその場に倒れて動かなくなった。


 美空さんは術が唱えられた段階で、下がって様子を伺っているので炎には当たっていない。


「今のは?」と女性から、問われるので「背後に付いたモノが悪霊だった場合に青い炎を上げて燃える術です」、「他言無用ですよ」と、笑顔で話し「本人には影響はありませんのでご安心ください」といった。


 そしていう「狙われる覚えはありませんか?」と。


「私には何もありません、狙われる覚えなんて……」とどこか何かを隠しているそういうような回答だった。


「貴方は上沼冴子さんではありませんか?」と吹雪さんが訪ねた。


「はい、そうですが貴方は?」との問いに「医院長の白根真理さんから、探し人の依頼が出ていまして、お探ししていた次第です」という。


「医院長がですか、御迷惑をおかけしました」とその方は謝った。


「まだ大きいのがいる、みんな気を付けて、どこかに隠れ潜んでいる!」と美空さんから注意が出された。


 まだ結界は解けないらしい。


 美空さんが周囲を見渡している、『黄泉透し』か『霊視』を使っているのだろう。


 そこっ! と美空さんがいって、空を何かが斬った『神符斬魔』らしい。


「チッ!」といって大きな狼の獣が姿を現した。


 その巨大さには目をおおいたくなる、高さで三メートルはあるだろうか、長さは幾何いくばくか分からない


 だが、『神符霊縛』を美空さんが射かけた。


 霊縛に捕らわれるや、大きさが小さくなった、姿をごまかしていたらしい。


 獣といっても灰色狐の大きいもののようだ、色から見て取れる、狼のそれではない。


 とはいえ野狐は油断ができない。


 狐狸の類は馬鹿にできないのだ、狐憑きともいう様に馬鹿にできない。


 だが霊縛に捕らわれるということは、力がある狐ということなのだろう。


 普通の野狐が霊縛に捕らわれることはない、そういうことなのだ。


 狐は動けないようだった。


 女性の様子を伺う、あまり調子はよさそうではない、むしろ悪くなってさえいる。


 狐に何か弱みでも握られたらこうなるのだろうが、白根医院と関係があるのかもしれない。


 だが今は狐の処理が最優先だ、私もいつでも対応できるようにしておく。


 霊縛をかけられた狐は自らの命を媒介ばいかい呪詛じゅそをみんなに散らそうとした、その次の瞬間『呪壊じゅかい』と美空さんが唱えた。


 すると呪いのようなもの全てがキラキラと輝き消えてなくなったのである。


 そして野狐は、そのままくたりと、こと切れ倒れて果てた。


 『穢れ祓え』と美空さんが再び唱えた。


 野狐の体にかけられていた、病の呪いが消滅したようであった。


 呪いそのものを壊し滅する、麒麟の神子の力だともいえた。


 特に隠すふうでもなく力を使うと、こちらに向かって来た。


 もう終わりということなのであろう。


「もう終わりですか?」と私は美空さんに聞いた。


 すると「そちらの方、人ではありませんね、今はこれ以上問いませんが、皆に何かしたら祓わせてもらいます」と、しっかり通告したのであった。


 さらにいった「一応祓えましたから、大物は残っていませんし、小物もおりませんから『隔離世』を解きます」といったのであった。


 そして軽く舞うと正式に『隔離世』を閉じたのであった。


 そして、吹雪さんが美空さんのところに行った。


 その間に、私と麻美あさみさんでその人をガードした。


 美空さんと吹雪さんは内々の話をしていた、ようだった。


 というのもほとんど聞こえなかったからである。

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