第十二章 魔女

第一話 オカシナもの

 鳳高等女学院 薫


 まだ夏至を過ぎたあたりだというのに、リンゴが実を付けた、早くても立秋くらいからのはずだ、明らかにおかしい。


 赤い赤い実だ、人を魅了するような、そんな実だった。


 虫も寄せ付けず、人が取るまでしぼれたりすることはなかった。


 結局、教師が取ったが、とっても色も変わらず、赤い赤いままだった。


 生徒は誰も食べはしなかったが、教師のうち一人がその誘惑に負けてか、味見かで食べて意識を喪失した。


 保健室に運ばれたが打つ手はなく、そのままその日のうちに病院に運ばれた。


 以後意識が戻ったという報告はなく、博物の授業は無い日が続いた。



 近衛高等女学院 紅葉


 果樹でなる季節に関係なく、果樹がなったという噂は直ぐに飛び込んできたが、普通科には反響があったが、特殊科には特に反響は無かった。


 不思議なことが起こるのが日常で、起こらない日の方が珍しいからだ。


 だが話題になることのほうが稀なのだ。



 風祭探偵社 吹雪


「我々は新聞記者じゃないのだぞ! 仕事をしろ! 秋山さん、浮気調査の依頼はどうなっている!?」と私は聞いた。



「はい、今のところ動きが無いので、他を当っています。でその最中に見ちまったんですが、ほおって置いてもよかったので? 大雲がまたホレたらしいんですが? その……女医先生に、であのザマなんですが?」と秋山さんがいった。


 私は静かに木槌を持った。


 秋山さんと鷹津風君が、急いで大雲をシバキに行った。


 だが治らない、秋山さんと鷹津風君が諦めて自席に戻った。


「さて、申し開きはあるか!?」と大雲の後ろで私はドスの効いた声でいった。


 だが大雲は反応がない……、私は無言で木槌を振り上げた、手加減せず振り下ろす。


“コーーン!!”という音と“いってえー!!”という声が響いた。


 私は大雲の耳元でドスを効かせた「次、気をやったら金槌だって言ったよな。金槌行ってみようか?」と聞いた。


「所、所長……ご、ご勘弁を……」といった。


「それとも、優秀な秘書官でも雇うか?」と別のお題を出した。


「それだけはご勘弁を、真面に働きますので」というので「三度目は無いからな!」とドスを効かせていうと、私は自席に戻って決裁書などに目を通し始めた。



 とある医院


 都の南西のはずれに新しく医者が開業していた、この地域に医院は珍しかったので、連日長蛇の列ができていた、今まで全く逆の側まで出なければいけなかった、ところに出来たからである。


 しかもトップを張っている医者が、女医で腕も顔もいいらしいということで、繁盛し始めたのであった。


 それが女学院で、ならないはずの実がなった時期と、被るのである。


 偶然というには出来過ぎていた。



 溜まり場 美空


「こちらは、特にこれといって問題は起きてないですね」と私が報告する。


「わらわも、特に何も、見聞きしてはいないのじゃ」とみことちゃんがいう。


「私は、異変といえば異変なのだけども、本来立秋以降に実を付けるはずの、林檎が赤い赤い実を付けたわ。ソレを味見した教師が、倒れて意識が戻らないから博物の授業は代行だというところまでは聞いたけど」と薫さんが話した。


「アタシんところでも似た噂があったかな、特殊科では、特に誰も騒がなかったから、よく知らねえけれども」と紅葉さんが答えた。


「変わったところだが、都の南西に新しく医院が開業したそうだ。ウチの大雲が、またそこの医院の女性医者にホの字でな……」と吹雪さんが新しい噂をいってくれた。


「しかし、本来の月にならずに実を付けた、ですか。何か怪しい気に当てられたのでは?」と私がいう。


「それと医院が開業した日が、ほぼ同じということかの? またなんぞ関係あるのと違うかの」とみことちゃんがいった。


「他に噂は何かありましたか?」と、私は吹雪さんに聞いた。


「これといって、それ以外は聞いてないな、今日は情報収取に鷹津風をやらせたが、めぼしい噂はその医院の話位だ」と吹雪さんは、答えてくれた


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