第十一章 地獄の番犬

第一話 魔物使い

 鳳高等女学院 薫


 そのものは、外套で姿を見えにくくして、そこにいた。


 博物の教師だと名乗ったそのものは、幼い印象を与えた。


 教える内容は確かに博物なのだが、どことなく違和感があった。


 そしてその持ち物である。


 皮のトランクと懐中時計はまだいいとしよう、その仕込みでも入って居そうな長さのステッキである、傘ではないのだ。


 そして身長が百六十五はあろうかという位に高く、目立つのである、そしてもう一つ目立つのはその髪の色である。


 灰色アッシュというのが正しいのであろう、教師曰くダブル(混血)であるというのである。


 他にも胡散臭い噂が出ており、やれ席を変えないと具合が悪いとか、いい出したのであった。


 教師の自席のほうの問題だったらしく、生徒には何も言わなかったのが救いであった。


 ただ、その生徒を値踏みするような、視線はいただけなかった。


 なので、最初から薄気味悪い、という話が起こったのであった。



 御霊神宮/お札所 みこと


 わらわ何かしたかのう、と思えるほどに人通りがなく、そういえばこの前も、こんなんじゃったかのう。


 と思えるほどに人が来ないのである。


 かといえば、鴉が溜まり、五月蠅くするのであった。


 今日は特に何がある日でもないが、暦の上でもとくに何もなかったはずであるが、何か不吉なものの到来を感じさせた。


 暦の上でいけば、夏至を少し過ぎたあたりである。


 だが明らかに人は少なかった。



 風祭探偵社 吹雪


「それは本当か?」と私は聞いた。 


「ええ、目撃情報だけですが、あまりにも大きい獅子のようなものと女の組み合わせです」と鷹津風たかつかぜ君がいった。


「そんなものがうろついたら分かりそうなものだが、他には見えてなかったというわけか」と聞き出す。


「所長より、背は高いかもしれません」というのだ。


 そして極めつけに「ただの獅子ならいいのですが、顔が三つだったり、二つだったりとコロコロ証言が変わるのです、聞き違いでは無かったですね」というのだ。


「女はこの辺りでは珍しくもなくなった、洋装でしたが、変わったものを持っていたそうです。それが、長めのステッキだった、という証言が得られています」と決定的なことをいった。


「それは決定的だな、傘では無くてステッキだったのだな?」と確定させた。


「はい間違いなく」と鷹津風君は答えた。



 溜まり場 美空・に組の皆


「今日は私からは、特に報告はありません」と私は答えた。


「わらわからもじゃ。ただ不吉なことが起こりそうな感覚があったのう」と、みことちゃんがいう。


「私は、今日新しく博物の教師が来たのだけれども、凄く胡散臭く感じたわ。持ち物が懐中時計と皮のトランクは良いのだけども、仕込みでも入って居そうなステッキなの。それに生徒を値踏みするような視線が気に入らなかったわ」と薫さんはいったのである。


「教師だって?」と吹雪さんが、反応した「ええ博物のだけど」と薫さんが答える。


「その教師かどうかわからないが、同じ持ち物で洋装をした、百六十五センチは有ろうかという女が、大きな顔の幾つかある獅子を連れまわしていたらしい、という噂があるのだ」と、吹雪さんがいった。


「確かに違和感はしたけど、そんなものがいるような気配はなかったけど」と薫さんが、答えたのだった。


「あ、アタシは特に何も見てねえぜ、試験勉強でそれどころではなかったからな」と、紅葉さんはいう。


 そこでとりあえず注意をするということで、様子を見るということになった。



 御霊神宮/お札所 みこと・美空


 背の高い女がお札所に来ていた、洋装で長いステッキを持ち、ただならぬ気配をさせた女だった。


 じゃが、わらわは知らぬふりを決め込み、厄除けが欲しいというので、厄除けのお守りを普通に購入したのでそのままで流した。


 もっとも知らぬふりで流せたのはそこまでじゃった、美空が来たのじゃ。


 あれだけただならぬ気配をさせていれば、バレバレじゃというものじゃ。


 周囲に参拝客のいる前で何かはせなのだが、美空の視線が少し下を向いていたので、何か居るのがバレていたのじゃろう。


 女は逃げるようにして、何事もいわずに、立ち去ったのであった。



 警察署 京志郎警部


「この傷は、春先の事件のに、似てないか?」と聞かれるので「似てはいますが、噛み跡が二箇所もありますよ? しかも、一度で噛んだようだ」といってみた。


「二口の獣でもいるのかね?」と鑑識が立ち去る。


 不可解な殺しが増えている、刃傷沙汰というには違うのだ。


 春先の事件に似ているといえば似ているが、今度は犠牲者の叫び声も聞こえているし、獣の吠え声も聞こえている、二頭か三頭いるような吠え声だった、と聞いたものは語る。


 全て辻で起きた事件なのだ。


 今回も、検非違使案件のような気がした。

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