第十一章 地獄の番犬
第一話 魔物使い
鳳高等女学院 薫
そのものは、外套で姿を見えにくくして、そこにいた。
博物の教師だと名乗ったそのものは、幼い印象を与えた。
教える内容は確かに博物なのだが、どことなく違和感があった。
そしてその持ち物である。
皮のトランクと懐中時計はまだいいとしよう、その仕込みでも入って居そうな長さのステッキである、傘ではないのだ。
そして身長が百六十五はあろうかという位に高く、目立つのである、そしてもう一つ目立つのはその髪の色である。
他にも胡散臭い噂が出ており、やれ席を変えないと具合が悪いとか、いい出したのであった。
教師の自席のほうの問題だったらしく、生徒には何も言わなかったのが救いであった。
ただ、その生徒を値踏みするような、視線はいただけなかった。
なので、最初から薄気味悪い、という話が起こったのであった。
◇
御霊神宮/お札所 みこと
わらわ何かしたかのう、と思えるほどに人通りがなく、そういえばこの前も、こんなんじゃったかのう。
と思えるほどに人が来ないのである。
かといえば、鴉が溜まり、五月蠅くするのであった。
今日は特に何がある日でもないが、暦の上でもとくに何もなかったはずであるが、何か不吉なものの到来を感じさせた。
暦の上でいけば、夏至を少し過ぎたあたりである。
だが明らかに人は少なかった。
◇
風祭探偵社 吹雪
「それは本当か?」と私は聞いた。
「ええ、目撃情報だけですが、あまりにも大きい獅子のようなものと女の組み合わせです」と
「そんなものがうろついたら分かりそうなものだが、他には見えてなかったというわけか」と聞き出す。
「所長より、背は高いかもしれません」というのだ。
そして極めつけに「ただの獅子ならいいのですが、顔が三つだったり、二つだったりとコロコロ証言が変わるのです、聞き違いでは無かったですね」というのだ。
「女はこの辺りでは珍しくもなくなった、洋装でしたが、変わったものを持っていたそうです。それが、長めのステッキだった、という証言が得られています」と決定的なことをいった。
「それは決定的だな、傘では無くてステッキだったのだな?」と確定させた。
「はい間違いなく」と鷹津風君は答えた。
◇
溜まり場 美空・に組の皆
「今日は私からは、特に報告はありません」と私は答えた。
「わらわからもじゃ。ただ不吉なことが起こりそうな感覚があったのう」と、みことちゃんがいう。
「私は、今日新しく博物の教師が来たのだけれども、凄く胡散臭く感じたわ。持ち物が懐中時計と皮のトランクは良いのだけども、仕込みでも入って居そうなステッキなの。それに生徒を値踏みするような視線が気に入らなかったわ」と薫さんはいったのである。
「教師だって?」と吹雪さんが、反応した「ええ博物のだけど」と薫さんが答える。
「その教師かどうかわからないが、同じ持ち物で洋装をした、百六十五センチは有ろうかという女が、大きな顔の幾つかある獅子を連れまわしていたらしい、という噂があるのだ」と、吹雪さんがいった。
「確かに違和感はしたけど、そんなものがいるような気配はなかったけど」と薫さんが、答えたのだった。
「あ、アタシは特に何も見てねえぜ、試験勉強でそれどころではなかったからな」と、紅葉さんはいう。
そこでとりあえず注意をするということで、様子を見るということになった。
◇
御霊神宮/お札所 みこと・美空
背の高い女がお札所に来ていた、洋装で長いステッキを持ち、ただならぬ気配をさせた女だった。
じゃが、わらわは知らぬふりを決め込み、厄除けが欲しいというので、厄除けのお守りを普通に購入したのでそのままで流した。
もっとも知らぬふりで流せたのはそこまでじゃった、美空が来たのじゃ。
あれだけただならぬ気配をさせていれば、バレバレじゃというものじゃ。
周囲に参拝客のいる前で何かはせなのだが、美空の視線が少し下を向いていたので、何か居るのがバレていたのじゃろう。
女は逃げるようにして、何事もいわずに、立ち去ったのであった。
◇
警察署 京志郎警部
「この傷は、春先の事件のに、似てないか?」と聞かれるので「似てはいますが、噛み跡が二箇所もありますよ? しかも、一度で噛んだようだ」といってみた。
「二口の獣でもいるのかね?」と鑑識が立ち去る。
不可解な殺しが増えている、刃傷沙汰というには違うのだ。
春先の事件に似ているといえば似ているが、今度は犠牲者の叫び声も聞こえているし、獣の吠え声も聞こえている、二頭か三頭いるような吠え声だった、と聞いたものは語る。
全て辻で起きた事件なのだ。
今回も、検非違使案件のような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます