第二話 黒い犬

 風祭探偵社 吹雪


「……というわけで依頼を受けるという前に、依頼人が事故で死んじまいまして」と秋山さんがいった。


「受ける前で助かったのか?」と、私はいう「で、どんな事故だって?」と聞き返した。


「最近、妙に多い馬車の事故でして、直接見たわけではないんですが」と秋山さんは答える。


 私は妙に多いというのに引っかかりを覚えた。


「妙にっていうのは、どれくらい多いのだ?」と聞いてみた。


 どうやら新聞に載り切らないほどあるらしい、それは異常だと思ったが、具体的に何が異常かわからなかった。



 溜まり場 美空・に組の皆


「今朝頃にお祓いしてほしい、という人が現れたのですけど、何か大きな黒い犬が見えるとかで、その人にしか見えないのだそうですが、家人には見えないのだそうです、お祓いはできる人に引き継ぎましたが、なんだか不思議な感じがして」と私はいう。


「そのはなしなら、わらわも聞いたのじゃ、丁度案内をしていた時じゃからのう。大きな黒い洋犬が見える、といっておったようじゃぞ、お祓いしている際中にもつぶやいとったし、あれではお祓いが効くかどうか、わからぬぞ、身を揺すったりすることも多かったようじゃしの」とみことちゃんは語った。


 どうやら相当、キていたらしい。


「私は、私のとこに呪いを送った奴に、呪詛返しをしておいたわ。祓うことや潰すことができないから、返すことしかできないのが辛いところね」と薫さんがいう。


「一大事じゃねえか! 簡単に呪えるもんじゃねえんだろう、それは」と紅葉さんはいった。


「確かに不思議なのよね、呪いとしては大したことはないけど、身にまとわすわけにもいかないし、不意を突かれたら私でも、危ないと思うわ。そういう意味では、滅多にしてほしくないのだけれども、最近多いのよ、呪詛が飛んでくることが」と、薫さんはいう。


「だとしたら大変なことだな、誰が飛ばしているのか分かるかな?」と吹雪さんは聞いた。


「わかればいいのですけど、私には叩き返すことしかできないので、呪詛を追えるわけではないのです」と答えた。


「私も今日は報告がある、馬車の事故が多くなってきているようだから、皆馬車には気をつけてくれ、新聞に載り切らないほど事故が多いらしい」と吹雪さんはいう。


「異常事態では?」と私は聞いた。


「私もそう思う、だが証拠が無いのだ、警察の方でも調べているのじゃないかな? 明日辺り覗いてみるか」と吹雪さんがいう。


「警察の方は吹雪さんにお任せするとして、対策といえば馬車に気を付ける事でしょうか?」と私は聞いた。


「それくらいしかないな、大きな黒い洋犬というのにも、気を付けなければいけないと思うが」と吹雪さんは答えたのだ。



 警察署 吹雪


波賀はが警部は来ているかな?」と、私は受付の主に聞いた。


「はい来ておりますが、どのようなご用件でしょうか? 新聞記者様ですか?」と、聞くので「新聞記者に見えるのかな? 用があるんで通してもらえないかな、探偵社のものだ」と聞いた。


 都に探偵事務所は幾つかあるが、探偵社を名乗るものは一つしかいない、ウチの社だけだ。


「風祭探偵社の方ですか、申し訳ありませんでした」と受付の子が謝った。


「気にしないでおくれ、急ぎの用事でね」というと笑顔で通してくれた。




 デスクに向かう波賀警部の姿を確認した、そして堂々と近づいていく。


「波賀警部、少しお手間を取らせてしまうがいいかな?」と切り出した。


「風祭さん、何でしょうか、私で答えられることなら、お答えします」といってくれる。


「実は、馬車の事故が妙に多い件でね」と、私はいう。


「その件なのですが、少し場所を変えましょう」といって、デスクを離れたので付いて行くことにした。


 屋上にまで上がる、それだけ極秘裏にしなければいけない、件らしい。


 そして、周囲に人が居ないのを確認すると、話し出した。


「実は、あの件は、私は検非違使案件ではないかと思っています」というのだ。


「どうしてそう思う?」と私は聞いた。


「実は被害者の体に、共通する項目がありまして。直接の死因ではないのですが、必ず犬の噛み跡が残されているんです。歯形も、検証しましたが、同一のものです」と波賀警部はいうのだ。


「確かに妙だな、それはまるで誰かが、同じ呪いをかけているようだ」と私はいう。


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