第七話 転換

 溜まり場 吹雪/に組の皆


 私は急いで駆けつけると、皆集まっていた。


 だが、皆一様に暗い。


「何があった?」と聞き出す。


 無言で悲しそうな表情で、文を美空さんが差し出した。


 私は急ぎ、姫からの書を読み始めた。


「あの馬鹿タレども! 人の庭を汚しおって!」と私は、怒り心頭であった。



 溜まり場 美空/に組の皆


「もっと早く動かないと、ダメだったのでしょうか」と私はいった。


「いや、もう少し早く私が、伝えていれば」と吹雪さんがいった。


 姫からの書では、〈【ほ組】が昨晩、かの屋敷に突撃し。返り討ちにあった、解決せよ。警部に連絡し、同行の上〉とあったのだ。


 警部とは、波賀警部のことを指すと思われた。


 単独で行けるのかどうか怪しいと思われたが、どこかと共同戦線を張れという話は指示にはない。


「まずは警部と署長に話を入れよう、話しはそれからだ」と吹雪さんがいった。


 そして大家のお婆さんのウチのほうに、吹雪さんは出て行かれた。


 電話を警察署に、するのであろう。


 検非違使案件であるから、探偵社の電話では不味いのだろうと思われた。



 溜まり場 みこと/に組の皆(吹雪以外)


「そう突っ立っていても、仕方がないのじゃ。気を、入れ替えるのじゃ」といって、わらわは棚からきんつばの入った箱を出した。


 そして人数分出すと卓の上に並べ、自分の分の紙包みを開け食べだした。


「よく食べられるわね」と薫にいわれるが、気にせず丸いきんつばを食べる。


「私も食べよう」と薫もいって、食べだした。


「アタシも食べるか」といって、紅葉も食べだした。


「美空、切ないのは分かるがそう突っ立っていても始まらないのじゃ。無理やりでも、気分を変えるのじゃ」とわらわは続けた。


 仕方がないのは理解したのか、美空も食べだした。


「まったく、どうしようもない。悩んでも仕方ないのじゃ、あの阿呆どもは。理解が、及ばんのじゃろう。わらわたちが、頭を悩ませるところではないのじゃ」といって、最後の一口をぺろりと平らげてしまう。


「調査もせずに、突撃なんて阿呆だわ」と薫もいった。


「よくも、向こう側が守れてるものじゃ。何も出てないのじゃろう、多分じゃが」とわらわは一人で考察を終わらせてしまう。



 溜まり場 吹雪/に組の皆


「警部が捉まらん」といって溜まり場に戻ると、皆で仲良くきんつばを食べていた。


「私の分は残してあるか?」と聞いて卓に着いた。


 みことが指をさした、そこには紙包みが一つ出ていた。


「警部は、今日来るかどうかわからないから。少し寝ずの番に、なるかもしれん」といいながらきんつばの包みを開けて私も食べだした。


 さっき思いつめていた美空さんも、今は笑顔である。


 少し、気分転換になったのだろうと思われた。


 いいだしっぺは、多分みことだろう。



 溜まり場 薫/に組の皆


 警部さんが、捉まらないらしい。


 これは事件になっている、ということなのだろうか?


「警部さんが捉まらないのは何故でしょう? 何かあったのですか?」と聞いてしまった。


 きんつばを食べ終えた、吹雪さんがいう「今、手が足りないらしくてな。それで、駆り出されているらしい」と答えたのであった。


 事件か、何か起こっているらしいが、公表できないのだろう、と思われた。


 そうこうしているうちに、夕食の時間を過ぎた。


 いい匂いがしてきた。



 溜まり場 美空/に組の皆


 人の気配が増えた、そちらを振り向くと盆に椀を五つ乗せて運んできてくれた。


 琴音お婆様の、姿があった。


「夕食まだじゃろう? すいとんじゃ、五人分あるからの」といって、持って来てくださったのである。


「お婆様、お呼びくださいましたら取りに行きましたのに」と吹雪さんがいって盆を受け取って持って来てくれたので、私たちは夕食を取ることが、できたのであった。


 すいとんは、私たちに取ってなじみ深いもので、庶民の味といえるものであった。


 お婆様は生地を手で丸めて小さい塊にして、汁で煮たようであった。


 美味しかったのである、京みそを使った汁が珍しかった、ここいらでは普通だが、東京府のほうには東京味噌なるものがあるらしい。


 京味噌の特徴は白っぽい色をしていることと、塩味が少なく甘味があることである、白みそに似ているが、京味噌と白味噌は製造方法などの違いはなく、どちらも同じ味噌であるということか、だが京味噌と呼ばれるには、細かい資格がいるらしい、ということくらいしか知らない。

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