第七話 転換
溜まり場 吹雪/に組の皆
私は急いで駆けつけると、皆集まっていた。
だが、皆一様に暗い。
「何があった?」と聞き出す。
無言で悲しそうな表情で、文を美空さんが差し出した。
私は急ぎ、姫からの書を読み始めた。
「あの馬鹿タレども! 人の庭を汚しおって!」と私は、怒り心頭であった。
◇
溜まり場 美空/に組の皆
「もっと早く動かないと、ダメだったのでしょうか」と私はいった。
「いや、もう少し早く私が、伝えていれば」と吹雪さんがいった。
姫からの書では、〈【ほ組】が昨晩、かの屋敷に突撃し。返り討ちにあった、解決せよ。警部に連絡し、同行の上〉とあったのだ。
警部とは、波賀警部のことを指すと思われた。
単独で行けるのかどうか怪しいと思われたが、どこかと共同戦線を張れという話は指示にはない。
「まずは警部と署長に話を入れよう、話しはそれからだ」と吹雪さんがいった。
そして大家のお婆さんのウチのほうに、吹雪さんは出て行かれた。
電話を警察署に、するのであろう。
検非違使案件であるから、探偵社の電話では不味いのだろうと思われた。
◇
溜まり場 みこと/に組の皆(吹雪以外)
「そう突っ立っていても、仕方がないのじゃ。気を、入れ替えるのじゃ」といって、わらわは棚からきんつばの入った箱を出した。
そして人数分出すと卓の上に並べ、自分の分の紙包みを開け食べだした。
「よく食べられるわね」と薫にいわれるが、気にせず丸いきんつばを食べる。
「私も食べよう」と薫もいって、食べだした。
「アタシも食べるか」といって、紅葉も食べだした。
「美空、切ないのは分かるがそう突っ立っていても始まらないのじゃ。無理やりでも、気分を変えるのじゃ」とわらわは続けた。
仕方がないのは理解したのか、美空も食べだした。
「まったく、どうしようもない。悩んでも仕方ないのじゃ、あの阿呆どもは。理解が、及ばんのじゃろう。わらわたちが、頭を悩ませるところではないのじゃ」といって、最後の一口をぺろりと平らげてしまう。
「調査もせずに、突撃なんて阿呆だわ」と薫もいった。
「よくも、向こう側が守れてるものじゃ。何も出てないのじゃろう、多分じゃが」とわらわは一人で考察を終わらせてしまう。
◇
溜まり場 吹雪/に組の皆
「警部が捉まらん」といって溜まり場に戻ると、皆で仲良くきんつばを食べていた。
「私の分は残してあるか?」と聞いて卓に着いた。
みことが指をさした、そこには紙包みが一つ出ていた。
「警部は、今日来るかどうかわからないから。少し寝ずの番に、なるかもしれん」といいながらきんつばの包みを開けて私も食べだした。
さっき思いつめていた美空さんも、今は笑顔である。
少し、気分転換になったのだろうと思われた。
いいだしっぺは、多分みことだろう。
◇
溜まり場 薫/に組の皆
警部さんが、捉まらないらしい。
これは事件になっている、ということなのだろうか?
「警部さんが捉まらないのは何故でしょう? 何かあったのですか?」と聞いてしまった。
きんつばを食べ終えた、吹雪さんがいう「今、手が足りないらしくてな。それで、駆り出されているらしい」と答えたのであった。
事件か、何か起こっているらしいが、公表できないのだろう、と思われた。
そうこうしているうちに、夕食の時間を過ぎた。
いい匂いがしてきた。
◇
溜まり場 美空/に組の皆
人の気配が増えた、そちらを振り向くと盆に椀を五つ乗せて運んできてくれた。
琴音お婆様の、姿があった。
「夕食まだじゃろう? すいとんじゃ、五人分あるからの」といって、持って来てくださったのである。
「お婆様、お呼びくださいましたら取りに行きましたのに」と吹雪さんがいって盆を受け取って持って来てくれたので、私たちは夕食を取ることが、できたのであった。
すいとんは、私たちに取ってなじみ深いもので、庶民の味といえるものであった。
お婆様は生地を手で丸めて小さい塊にして、汁で煮たようであった。
美味しかったのである、京みそを使った汁が珍しかった、ここいらでは普通だが、東京府のほうには東京味噌なるものがあるらしい。
京味噌の特徴は白っぽい色をしていることと、塩味が少なく甘味があることである、白みそに似ているが、京味噌と白味噌は製造方法などの違いはなく、どちらも同じ味噌であるということか、だが京味噌と呼ばれるには、細かい資格がいるらしい、ということくらいしか知らない。
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