第二話 事例

 河原 紅葉


 ソイツはアタシ相手でも、かなり余裕をぶっこいていた。


 喧嘩が始まった。


 相変わらず周囲の喧騒が無い、だが手は抜かない。


 それが流儀だ。


 だが普通の打ち込みでは、ソイツに通ってないと思わされた。


 山のように動かないのだ。


 仕方が無いので、喧嘩には御法度といわれているアレを少し載せることにした。


 徐々に、効き始めた。


 そしてソイツに余裕がなくなった、アタシのほうはまだ余裕の領域でしかない。


 それに呼応するかのようにソイツが吠え始めた、コレは言霊というヤツだ。


 だが、アタシには効かない。


 それにソイツが焦り始めた、普通のヤツ相手なら最初だけで十分だったろう。


 アタシが、相手だ「相手が、悪かったな」と私ははじめて声をかけた。


 今まで、無言を貫いてきたのだ。


 いきなり声をかけられ、ビビったようだった。


 だがソイツは変化しない、そのままで戦いを挑んできた。


 変化してもおかしくない状況だ、そういう感じだったが少し違うのかもしれなかった。


 なのでここで決着をつけるべく、殺さない程度に張り倒した。


 だが、立ち上がってきた。


 仕方がないと思いアレを強めた、その気に押されたのかソイツがおびえた。


 問答無用! 不殺だが精神を殺しにかかった、心を折るのだ。


 殴るほうに闘牙法をまとわせた、それで数発耐えたが五発目で沈んだ。


 ソイツの意識を、刈り取ったのだ。



 御霊神宮/社務所 みこと


 わらわは休憩に入っていた、いつものいつでも休憩ではない。


 ちゃんとした、休憩時間じゃ。


 じゃが、することはいつもと変わらないゴロゴロ休憩をするのじゃ。


 数度往復した後、違和感に気が付いた。


 社務所のいや、その周囲の空間を刈り取ろうとする気配があることに……。


 わらわは、その気配に立ち向かうことにした。


 周囲に美空みそらがおれば、伝えてしまいじゃったろうに運の無いヤツじゃ。


 そう思って、そのヤツのいるところに向かった。


 そこには一人の書生と思しき人物がいたが、気配がすでに人では無かった。


 問う口調で「おぬし、そこで何をしておるのじゃ?」と聞いた。


 書生はこちらに振り向いて何事かいう前に倒れ、そこに一匹の鬼が現れた。


 影に隠れていただけらしいが、わらわを前に一匹で立ち向かうなどいい度胸じゃ。


 周囲に人気はない、喧騒そのものが無かった。


 外界から、隔離されたようだった。


 そういう時は隔離したヤツを叩く、それは常識じゃと思った。


 鬼に対象を絞って、術を放つった。



 御霊神宮/社務所前 美空


 今日も、おさと話しているときだった。


 鬼の気配がした。


 『鬼が来ました』と隠語で長に、告げた。


 そして、社務所の気配が無くなった。


 『社務所が隔離されました』と隠語で告げて、そこを離れた。


 そして社務所の裏に回った私は、裏は森に近い木の影に入って姿を隠し周囲に人気が無いのをいいことに『隔離世』を展開した。


 そして社務所を隔離した、空が薄紫色に変わる。


 そして状況を確認する。


 周囲には私しかいない、それに見えない。


 『隔離世』を抉じ開けるには、私を倒すしかない。



 御霊神宮/社務所 みこと


 『烈火』が鬼を、焼いた。


 鬼がもだえるが、手は抜かない。


 鬼が打ちかかってきた。


 じゃが、結界を張りその一撃を受けた。


 わらわは本来、接近戦を得意としない。


 じゃが、無理やりできないわけではない。


 烈火の威力を上げた、鬼が耐えられず外界に逃げようとした。


 じゃが『隔離世』が展開されていた、空が薄紫色じゃからわかるのじゃ。


 追い打ちをしようとしたところに、霊弓が数本深々と突き刺さった。


 たまらず、鬼が散った。


 手柄を取られたというより、助けられたのじゃ。


 あのまま烈火で燃やすわけにはいかなかったのじゃ、誰かに術を行使する姿を見られてもいけないのじゃから。


 書生のほうに行って、助け起こす。


 それをしている間に『隔離世』が閉じられ、普通の空の色が戻った。


 書生には少し疲れがあるようじゃったが、無事歩けるようじゃった。


 書生に助けてくれた礼を、いわれたが「気にするでない」といって見送った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る