第七章 大鬼

第一話 事件

 少し離れた山


 検非違使の一つの組が仕事を行った。


 だがしかし合ってはならぬことだが、敗走し命からがら逃げることになったのだ。


 全滅はしなかった、だが被害は甚大であったらしい。


 問題はそこではない、問題はその中身だった。


 鬼が集団で暴れまわるというモノだったが、ただの鬼では無かったのだ。


 いわゆる名前が付く直前の、大鬼であった。


 敗走原因は戦力比、その差通常の十倍だった。


 組を束にして当てないといけない案件に、一組で立ち向かったのである。


 それは勝てないというよりも、功を焦った無謀といわれても仕方がなかった。


 それは派閥争いが生んだ、不幸だった。


 後がなくなった検非違使は、組をその数の倍二十組動員した。


 そして、殲滅したのであった。


 そこは殲滅し終えたのだが、ソレそのものは問題が無かった。


 問題が出たのは、滅し終わった後である。


 首の数が、合わないのだ。


 三匹逃れていることが分かったのだ、大鬼と中鬼二匹が。



 市街 吹雪


 今日も、今日とて暇ではない。


 探し人の依頼を熟すべく、私は足を棒にしていた。


 私は普段から見えるものを制限しているため、そこまで日常生活に何かが入ってくることが無い様にしている。


 訓練でそのようにしているのだが、その日であったモノは何か違うという違和感の塊であった。


 だから、目についたのだ。


 何かを隠そうと、意図的に何かをくみ上げると私の目にひっかかるのだ。


 かといって街路だ、ほってはおけなかった。


 誰かに、連絡できるわけではない。


 かといって私には美空さんや薫のように、別の何かで代用できる能力はない。


 だから尾行、なんてややこしいことになったのだ。


 だがこれくらいしか、できないのだ。


 そして一つのお屋敷に行きついた、周囲から喧騒が消えていた。


 だがどこかに引き込まれたりするような、感じはしなかった。


 そのお屋敷の主の名と住所をメモすると、そこから引き上げた。


 追手の追跡は無かった、追われているとそれに関係する感覚が立つのだがそれが無かった。


 追跡がいてもまけるように、仕組んで動いたからだった。


 探偵社に帰り着くと状況を知るべく、さっきのメモから必要事項を取り出しそこにいた鷹津風たかつかぜに調査を要請した。


 急ぎかどうか聞くので、急ぎである旨と屋敷の主に感づかれてはいけないという注意をした。



 御霊神宮/社務所前 美空


 私は偶々おさと話しているときに、それに気が付いた。


 私が隠語を会話に含むことは、滅多にないので気が付いてくれた。


 普段の会話をするようにしながら、隠語を繋げると、『鬼がいますが、どうしましょうか?』になるのであった。


 『暴れるようなら倒す必要がある』と、はっきりとした回答が得られた。


 だがソレは暴れず、静かに立ち去ったのであった。



 御霊神宮 美空


 そのことがあってから少したった、特に異変は無かった。



 風祭探偵社 吹雪


 鷹津風が戻った。


 違和感はない、中身が違ったりするとすぐわかるのだ。


 優秀な奴だから、失うことはしたくないのだ。


 だが私は女で彼は男であるのだ、性別が邪魔する仕事もある。


 そういうことだ。


 特に調査については、私は女でかつ能力者ということで目に付いたりすることがある。


 だが男で尚かつ能力者でない彼は、そこまで気にされないものなのだ。


 状況予測はドンピシャで当たった、今かの家の主は人を嫌って人を遠ざけているそうなのだ。


 妖魔あやかし案件の、特徴と合致した。


 だが姫の口利きなしに、我々は動けない。


 状態を静観するように高津風にいうと、特に何事か聞くことなくいつもの仕事に戻った。



 河原 紅葉


 アタシは珍しく喧嘩に、駆り出されていた。


 といっても下っ端ではない、大将で引っ張り出されたのだ。


 河原で対峙する、対峙する相手は学区の完全に違う隣町の女学校を締めているという不良共だ。


 だが、違和感があった。


 喧嘩を進めるにつれて、その違和感は顕現しつつあった。


 大将戦まですべて勝ちで抜けた、ここで折れるわけにはいかない。


 引くことも、許されない。


 ソイツの様子が、おかしかった。


 たいして大きくもない体で、むしろ貧弱といわせるくらいの体で番を張っているというのだから。


 これはアレが要るか? と思わせる、発言があった。


 こんなところで、お目にかかることはまずない。


 妖魔案件である。


 もうそろそろ官憲が手を出してきてもおかしくないのに、官憲が来ない。


 そして周囲から、喧騒が消えていた。


 いつものヤツであるので、多分そうだと思った。

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