第六章 黒蛟
第一話 淵
とある淵
小さな社があった、だがそこに賽銭泥棒が入ったのだ。
社は荒らされ、金目のものは持ち去られた。
淵から、黒い蛟が飛び上がった。
天を駆け黒雲を作り豪雨を降らせた、河は氾濫し危険な状態になった。
◇
とある淵 美空/に組の皆・京志郎警部
原因はあったが、何が原因かすぐには分からなかった。
私たちは姫からの勅命で動いた、淵にたどり着き
売り物のほうで足がつき、そこから犯人が割れた。
当然全てのものを取り返させた、宮大工に依頼し淵の小さな社の復旧を依頼した。
天候操作はできなくもないが、力業ではなく神楽舞で治めないといけないのだ。
かなり緊張する、それは仕方がない。
皆には
最悪の場合戻ってきた、怒っている蛟とぶつかる可能性がある。
最悪の状況を想定して、皆で来ているだけなのだ。
治まらなかった場合の、ストッパーとして私たちがいるのだった。
凄く切なく、やるせなかった。
淵に治まってくれればいいが、と思いつつ舞う。
そして黒雲が接近してきた、蛟を刺激しないように。
蛟の気もそれなりに、ブレルものであるからして。
治まらない可能性があるのだ、それは最悪避けたかった。
だが蛟の観察眼もまた鋭く、不機嫌手前であった。
社は新しく直された、モノも全て戻っている。
不機嫌になる要素はまだあるが、時が無かったのだ。
致し方なかった。
殴り合いになれば双方が傷つく、それを避けたかった。
お互いに、良くないのだ。
機嫌を取るといえばおかしいが、祈祷の神楽舞によって気勢を削ぐことはできて来ていた。
祈祷の舞は、祈りに近いといえば分かりやすいだろうか。
蛟は水神だといって、おかしくない
この方法で、治められれば、それに越したことはない。
しかも一方的なのは人の方なのだ、これで静まってくれと願いながら、舞い続けた。
◇
とある淵 薫/に組の皆・京志郎警部
美空さんが舞い始めた、黒雲が降りて来ていた。
黒雲の中に、黒く鈍く光る大きい
予想よりもはるかにデカい、こんなの私たちで相手に出来るのだろうか?
美空さんは水神だといっていた、神といわれれば納得できる大きさだった。
◇
とある淵 紅葉/に組の皆・京志郎警部
美空が少しアタシたちと少し離れ、踊り始めた。
アタシには、舞と踊りの区別がつかない。
黒雲が降りて来た、雲中にデカいやつがいた。
誰であろうと敵になるなら、サイズは関係ない
拳線を鈍らせたら、終わるのはこちらのほうだ。
◇
とある淵 みこと/に組の皆・京志郎警部
美空が舞い始めた、願うような祈りの舞じゃ。
あヤツの舞をこんなところで見られるとは、じゃが、今回の舞はやるせなさ満載じゃ。
黒雲の中に隠れているものは、どんな思いでこの舞を眺めているのじゃろう。
◇
とある淵 吹雪/に組の皆・京志郎警部
美空さんが、舞い始めた。
すぐに黒雲が降りて来て、美空さんの周囲を漂い始める。
確かに大きい。
黒く鈍く光る鱗を持ち大木の幹よりも太い胴を持つ黒蛟、水神というのも納得だ。
こいつを相手にどう戦うかも考えながら、舞が静かに終わるのを待つしかないのだ。
舞が終わっても鎮まっていなければ、戦闘で鎮めるしかない。
出来れば、それはしたくなかった。
神の名を持つものに挑んでも、勝ち目は薄いからだ。
◇
とある淵 美空/に組の皆・京志郎警部
舞がもうすぐ尽きる、祈りを込めながらその指先にまで霊力ちからを漲みなぎらせ舞う。
最後までちからと礼は欠かさない、それが祈祷だからだ。
舞が終わった、黒蛟が目の前にいた。
もうその瞳には狂気は湛たたえていない。
瞳がもう一度舞を舞ってくれといっているようだった。
鎮魂の舞を舞うことにする、私は舞の数が普通の巫女よりも遥かに多い、神子だからだ。
◇
とある淵 薫/に組の皆・京志郎警部
美空さんが再び舞い始めた、上手くいっていることの証なのだろう。
私は法具からそっと手を離した。
◇
とある淵 紅葉/に組の皆・京志郎警部
美空が再び踊り始めた、上手くいっているのか? そう思えた、闘気が鎮まっている。
アタシは拳を緩めた。
◇
とある淵 みこと/に組の皆・京志郎警部
美空が再び舞い始めた、今度も舞の種類が違う様じゃ。
黒雲の中に居たモノが、姿を現している。
気持ちが鎮まったようで、舞を再び見たいと催促したのじゃろうと思えた。
◇
とある淵 吹雪/に組の皆・京志郎警部
美空さんが、二度目の舞を舞い始めた。
さっきのとパターンが違うようだ、別の舞なのだろう。
怒気のようなものは、もう感じない。
私は、いや我々はあのモノとは戦わずに済むようだ。
私は、銃に掛けていた手を元に戻した。
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