第四章 雷獣
第一話 雷雲
御霊神宮 美空
その日は朝から雨模様だった、空を見れば黒雲が渦を巻いている。
とかく今日は、大雨暴風の日である。
雷雲もいるのかゴロゴロと空雷が、鳴り響きっぱなしである。
雨戸を下ろしたり閉めたりし風雨に備える、外は台風張りの天気模様だ。
風雨は厳しいのであちこちの雨戸を下ろす準備をしていく、今日は男性陣も総出だ。
そして私は見てしまうのだ、黒雲の雷雲の中にいるソイツを“ヒョーヒョー”と鳴くソイツを……。
それは伝説の雷獣、
それ以外に、どう表現してよいのか、分からなかった。
◇
風祭探偵社 吹雪
「嵐か、厳しいな」と私がいった。
鎧戸を全て下ろして窓をカバーする、だが閉める最中に見てしまった。
“ヒョーヒョー”と鳴く獣を、黒雲の中に。
「なぜアイツが」といったが、風雨でかき消されてしまった。
◇
町長屋 薫
こんな日はお休みよね、といって欠席を決め込んだ。
窓をしっかりと閉め風雨をシャットアウトする。
普通の長屋だと、今ごろ大変なんだろうな、と思いつつ土蔵造りであることに、感謝してのんびりゴロゴロするのである。
◇
御霊神宮/社務所 美空
「こんな日だが、何かあっては困るので待機で頼む」と
だがさっきあんなものを見た後だ、真面に落ち着く方が難しかった。
社務所は比較的しっかりとした構造をしているので、この程度の風雨にはびくともしないが、それ以外の文化財関係が怪しかった。
かといって、鵺を見ましたなんていえるはずもない。
私は珍しく表情が、怪しかった。
◇
御霊神宮/社務所 みこと
こんな日でも、非常勤のわらわは、出なければいけなかった。
学生連中が恨めしいわけではないが、吹き飛んでくるものもあるような日である。
土蔵造りの町長屋にいたかったが、しかたあるまいお仕事じゃ。
あちらこちらの戸を閉め雨戸を下ろし、片付いたら社務所で待機といわれた。
違和感があった、いつも笑顔を絶やさないものが笑顔でないのじゃ。
怒っていてとかそういう雰囲気ではない。
じゃが、聞き出せそうになかった。
そういう雰囲気では、無かったのじゃ。
聞くに聞けない雰囲気を、まとっていた。
手出し無用とでも、いうように。
◇
近衛高等女学院 紅葉
こんな日はフケるに限るといいたいところだが、普通科は休みでも特殊科は休みではない。
警報が出ようが雹が降ろうが槍が降ろうが、何があろうが授業があるのだ。
それが特殊科である、という理由ともいえた。
そういう意味では薫が羨ましかった、だがアタシにはここしか選べる道が無かったのだ。
学費免除の代わりに特殊技能を修め検非違使となること、それが定められているのが特殊科だ。
だから近衛の名で、特殊なんて名を冠するのだ。
◇
町長屋 薫・大家(琴音)
雷が近くに落ちた、響くのと同時に電気が消えた。
真っ暗闇である、幸い暗視は慣れているからいいようなものの。
だが異様な気配がする、この気配は
周囲が異様に暗い黒雲の中にいるようだ、外はまだ防風が吹いている風の音がするのだ。
大家のお婆さんの悲鳴が聞こえた、不味い!
だが今は私しかいない、闇を払う術もない。
五鈷鈴なら近くにある、そう思って手を伸ばした。
五鈷鈴に手が届いた、五鈷鈴の鈴を使う結界を張るのだ!
広域に該当する術はあまり多く使えない、唯一結界くらいまでなら五鈷鈴を使えばできるのだ。
まずは人命優先! 結界のマントラを唱える、そして鈴を鳴らす。
周囲から暗雲が退いた、これそのものが妖魔!
お婆様の元に急ぐ、今は私しかいないはずだから責任重大だ!
“ヒョーヒョー”と鳴く妖魔がそこにいた鵺だ、お婆様はすでにしりもちをついて腰を抜かしていると思われた。
間に割り込んで、五鈷鈴の剣のほうを伸ばした。
さすがに鵺、体躯が大きい。
だが周りにまとう闇のせいで、しっかりとした全体像を捉えられない。
だが剣に霊力を流し込んで、剣自体を発光させる。
暗闇の中、鵺と対峙する。
明らかに不利だ、だがやるしかない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます