第二話 恋の病

 風祭探偵社 吹雪


 最年長の秋山あきやまさんくらいの、割り切りができればいいのだがそれは最若輩の大雲には無理というものだ! 人生経験が、モノを言っている。


 大雲が秋山さんにドツカレている、確実に拳骨だ。


 大雲の机上にも彼にしかこなせない、書類の山が並んでいるのだが今の大雲は全てが上の空だ。


「てめえ、なんで釣り合わないことくらいわからねえんだ! お前じゃ見向きもされねえよ! いい加減に目を覚ませ!」ともう一発ドツカレるが、相変わらずボーっとしている。


 秋山さんも鷹津風もその辺の割り切りが速いのだが、大雲は切り替えが遅いらしくあの状態なのだ。


 だから私も秋山さんに加勢するべく新聞を硬く丸めると席を立った、その剣幕に秋山さんが後ずさった。


 “パカーン”といい音が事務所内に鳴り響いた、さすがに今のには気付いたようだ。


「所長!」と大雲がこっちを向いた、「お前、クビになってみるか?」とドスの効いた声でいってやる。


 さすがにクビと告げられると、大雲は仕事の山に向いた。


「次ボーっと気を飛ばしたら、金槌で殴り飛ばすからな!」と告げた。


 いわんこっちゃねえと秋山さんも、事態を静観している。


 私は、過激なほうなのだ。


 木槌を間に挟まなかったのは、脅しの効果を高めるためだ。



 溜まり場 吹雪/に組の皆


「……以上が中間報告だ」と、私は告げた。


「私のほうからは、お祓いとご祈禱の長い列ができて、大変だったくらいでしょうか」と美空みそらさんがいった。


「わらわも、お札所に厄払いのお守りを購入する者が増えて、いつ切れるか、ひやひやしながら作業をしとったのじゃ」とみこともいう。


「悪魔憑きの話というか噂が多くなってきたわ」とかおるが告げた。


「アタシのほうは特に変化がネエ」と、紅葉もみじがいった。


「あとこっちの内情の話だが、美空さんにホの字のヤツができた。そっちに行っても、すげなくしてやってくれるか?」と伝えることにする。


「ホれたハれたですか、沢山ありすぎるので全てお断りしていますが」と、安心な報告が聞けた。


「すまんが、ウチの大雲が行っても、無視を決め込んで欲しい」と相談を持ち掛けた。


「どなたが大雲さんか分かりませんが、惚れた腫れたは厄介ごとなので、流しておきますね」とはっきりとした回答が、得られたのであった。


「今回は姫からまだ何もないか?」と話題を変える。


「まだ何もおっしゃっていないですね、式も来ませんし」と美空さんが答えた。


 姫君の案件は、基本的に美空さんを通される。



 次の日の高等女学院の中間付近にある茶屋 薫/紅葉


「噂しか出てねえが、まだ何もないな」と紅葉がいった。


「噂なんて不確かなものを当てにするより、姫の御采配を気にしましょうよ」と私が、みたらし団子を食べてお茶をすすりいった。


「だが、悪化の一途をたどっているのは事実だぞ」という紅葉。


「私たちは最後の守手なのだから、安易に力を使うことは許されませんよ」と硬いことをいう。


「でもよう」と紅葉はいうが、「具体的に何がどうなっているのか分からないのに、手を出す方の気が知れません」と私は実直に物事をいった。


「百人いたら、百人相手にするつもりですか?」とも聞いた。


 紅葉が口をつぐむ、いっていることの意味が分かったのであろう。


 いくらやっても、元凶を潰さなければ増えるだけだということに……。


「こうやってても意味はありませんから、溜まり場に行きましょう」と促すのであった。



 溜まり場 薫/紅葉・吹雪


「今日は私たちが最初ですね」といって中に入っていく。


「いつもは采配があるから美空さんが一番なのだけれども」という。


「悪魔憑きがこれだけ増えるということは、どこかに元凶がいるはずですし、それが分からないことには、手の出しようがありません」ともいった。


 吹雪さんがやって来た。


「変わりはないか?」と聞かれた。


「相変わらず噂だけが先行している状態ですね」と頬杖をつき答える。


「元凶が分からんとなあ」と吹雪さんもいわれた。


「でもなんとかしたいじゃねえか」と紅葉はいうのだが、吹雪さんから応酬をもらう「そんなこといってると千でも万でも相手にしなければならなくなるぞ、我々が相手をするのは精々一体か数体が限度だ! 元凶のみをぶちかまして相手を沈黙させるほかはない」とはっきりいわれ、今度こそ口をつぐんだ。

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