第三章 使い魔

第一話 悪魔憑き

 鳳高等女学院 薫


 この手の話は実際に多く、私でなくてもよくうわさ話に乗るので知っていたのであった。


 文明開化以降この手の話は多くなってきつつあった、悪魔憑きの話である。


 西洋文化が入ってきて華咲くこの時代では珍しい話ではないだが、気のふれた人間を全て悪魔憑きで括るのはいかがなものかと思っていたわけである。


 わが鳳高等女学院でも、数人気のふれた人物というのは噂に上がってきているのである。


 最初は行動や言動がおかしくなって、それから奇病と診断されて床に付くのだ。


 ふせっているともいわれるが、その行動は尋常ではないと聞く。


 私はどちらかといえば、悪魔を払う側の人間だ。


 だが姫の御威光が無ければ、ただの人をやっているしか無いわけである。


 今回はそれだけと思われた、他に噂話は上がって来ていないからであった。



 御霊神宮/お札所 みこと


 今日も今日とて賑わう、お札所は大忙しだ。


 特に憑き物払いが、多い相談になっている。


 お祓いや御祈祷をお願いする者も、ぐんと増えたちまたで流行る悪魔憑きの影響もあるのかもしれない。


 御祈祷は二級の神職以上でないと難しいことから、現在順番待ちの列ができている。


 二級以上の神職は、本社には三名が在籍している。


 全部男性陣だが、宮司のおさが二級上、他二人が二級で権宮司である。


 三級の禰宜もいるが三名しかおらず、男性陣は他にもいるがそのほとんどが権禰宜で直階までしか持たない四級のものである。


 本社には権禰宜は現在、六名が在籍する。


 わらわも検非違使けびいしの階位で、ようやく三級といったところじゃから力にはなれぬのじゃが……。


 美空は本来の階位であれば、一級か特級もかくやといわれるだけあり力を感じられる。


 だが神宮の長の手前そういうわけにもいかず、本来の実力を封印しているといっているのだ。


 そのあたりはやるせなさなのじゃが、致し方あるまい。


 美空の神楽舞はそういう効果にあふれていて、見ていて気持ちいものがある。


 じゃが、お神楽を美空が舞うのは年に数度あるかといったところで寂しいかぎりじゃ。


 大抵は、他の正規巫女に任されることが多いのじゃ。


 また厄払いのお守りを求めて、お札所に来た人物がおるのう本格的にヤバそうじゃ。


 じゃが、わらわの権能では払えないのは確実じゃ。


 お守りも、効果薄そうじゃ。


 こういう輩を何とかしたいと思うが、わらわでは荷が勝ちすぎる。


 こういう時に限って、美空も近くにはおらん。


 あヤツがおるだけで、この程度のものなら抑えられるのじゃが。


 わらわでは、どうしようもないのう。



 少し話はずれるがこの社は、御霊神宮の名で親しまれておる。


 【天皇家にまつわる神器を祀っている】とおさである闇波様がいうとったのじゃ。



 風祭探偵社 吹雪


 さすがにヒマだなとは思うが、顔には出さず書類整理に精を出す。


 実務はこの前立て続けにやってしまったので、書類整理が山のように膨らんでいるのだ。


 しかし、終わらんな。


 ちまたでは悪魔憑きが活性化しているというのに、そういう手の依頼は神社に多くいってしまう。


 探偵社の、領分では無いからだ。


 だが仕事が無いわけでもない、人探しの依頼だ。


 一件一件は安い依頼料だが、こういうものを一手に引き受けてこその探偵社だと思うわけだ。


「人探し行ってきます」と鷹津風たかつかぜが、人探しに出かけて行った。


 彼は【未解決の刑事事件を解決したい】と意気込んでウチに入ってきたが、最近では慣れてしまったのかあまり無茶はいわなくなってきている。


 いい環境だが今は大雲おおくものほうが重症だ、恋の病と言うヤツらしい。


 が、相手が悪すぎる。


 清廉潔白と名高く、美人で名高いあの御霊神宮の巫女頭である美空さんにホの字なのだ。


 確かに美人だし気立てもよいし、悪いところを探すのが難しいほどの才媛である。


 だから大雲には【荷が勝ちすぎる】と忠告はしたのだが、恋の病は草津の湯にでも行かなければ治らないらしく私の忠告は効果を成してない。

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