第二章 餓鬼

第一話 憑き物

 御霊神宮 美空


 その日神社に入れないというものが出たらしかった、だが私は直接見ていないので分からなかった。


 そのものは異様に腹が膨れ手足がガリガリに痩せていてとても人のようには見えなかったが、着物を着ていて肌の色も若干黒くなっていたというではないか。


 それは餓鬼憑きでは無いかという話があり、常に飢えているのではないか? という話も持ち上がったが、払う前にどこかに行ってしまったそうなのである。


 ちまたでは、記者が遭遇したらしい。


 異常な人物という話題が、持ち上がってしまっていた。


 なんでも滝川新聞社の記者が遭遇したものには肌が褐色で腹が異様に膨れ上がり、手足が痩せこけていて病人か何かのようだったと書かれているのである。


 今回神命は私に降らなかった、そういうときもあるのである。



 鳳高等女学院 かおる


 休み時間に暇をしているところに、異様な風体の男が通りかかった。


 その男、異様に膨れた腹をしており急ぎ足でどこかに向かうようであった。


 私は少し怪しんだが、授業の始まる鐘がなったので窓から外を見るのを諦めてしまったためそれだけになった。


 餓鬼に似ていた、というのは言い過ぎかもしれないがそのように感じた。



 溜まり場 薫/に組の皆


「……という話が合っての」と話すのはみことちゃんだ、神社に入れないというものが現れた場に居合わせたらしい。


 掃除をしていたら偶然目が合ったが、およそ人の目では無かったらしい。


「飢え尽くしたものの目、といった感じだった」とみことちゃんは語った。


「私もそれに似たのなら、休み時間に見たなあ」といっておく、見てないというわけにもいかなかったのだ。


「でも見ただけで授業の始まる鐘が鳴ったから、見無くなったらいつの間にかいなくなっていたなあ」という話をした。


 そして次の日その記事が新聞に載ったのだ、滝川新聞の一面だった。


 記者がいうには食欲がなくなりそうな描写でとても、といった雰囲気だったらしい。


 今回姫からは、特にまだ何もいってきていなかった。


 いわれてないということは、まだ動く時期ではないのかもしれないとしか考えられなかった。


 だが人々の噂に上るのは不味いとは思っていたが、私も指示されていないのに、動くわけにはいかない身なのだ。


 異能は持つが、それをおいそれと知られてはいけないのである。



 風祭探偵社 吹雪


「その事件はこの前解決した、新聞の件? 何か話は来ていたか? 我々は、タダで仕事をするわけにはいかないんだぞ。人助けは悪いとはいわんが、自分がちゃんと独り立ちできるようになってからしろ!」と大雲おおくもに私はいった。


「我々は慈善事業家ではない、慈善事業がしたければ探偵社を辞めてもらうぞ!」と極めて厳しい口調で問い詰めた。


「まだ受けるとは言っていません」と大雲が反論するが、敢えてねじ込んだ「そんなはした金も持っていない者のために無銭で受けられるような裕福な探偵社なんてない、自分で切り盛りできるようになってからいえ!」と厳しく教えた。


「すがるような、目で見つめられても。出せるものが出せなければ、我々がたちまち飢えてしまう。分かって、言っているのか!?」と呆れたように私はいった。


 大雲は反論できずにただ首を垂れるだけだった。


 鷹津風たかつかぜが帰ってきた、そしていう「彼らにゃ何もありませんね、資産になるようなものも資材も土地すらも借地だ」といって来た。


 そらみろといわんばかりに、大雲をにらみ付ける。


「裏取りはできた、受けるなよ! 大雲」と私はいった。


 姫からの指示でもあれば、何か動けるのになとは思ったが思っただけにしておいた。


 大雲は、席から動けていなかった。



 たまり場 薫/紅葉


 十七時の鐘が鳴った、今は紅葉と二人だ。


 吹雪さんが来るまでに十分はある、美空さんとみことちゃんが来るまでにゆうに二十分はある。


 みんなが揃うのは、大体平均で十七時半だ。


 姫からの指示があれば動くが、無ければ顔合わせして情報交換して十九時には別れる。


 そういう段取りだ。


 十七時半を過ぎた……今日は皆遅めだった、集まれたのは十七時四十五分になってからだった。


 情報を交換した、吹雪さんから貴重な情報が出た。


 探偵社に金もないのに依頼しようとするやつが現れた、という情報だった。


 それはそれで貴重な情報だ、新聞に載って以降、ソイツ(餓鬼のような男)の情報が無かったからだった。

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