第五話 幽霊

 都内/日本橋 美空/に組の皆・京志郎警部


 一人の男が傷つきながら、悲鳴を上げている場面に遭遇したのだ。


 吹雪さんと私以外には何が起こっているのか分かる者はこの場に居ない、まずは何が起こっているのか分かってもらうことにする。


 吹雪さんから視線が飛んできた“やってくれ”という視線が、私は軽く舞い『隔離世』を展開した。


 その瞬間空が私色に塗り替えられた、薄紫色に空が塗り替えられる。


 そして本来見えないはずの霊体が全て現れたのである。


 警部にもその光景は見えているはずである、洋獅子を連れた女の霊までもが皆にはっきりと見える。


 痴情のもつれか、と思われた。


 だが巷を騒がす犯罪なのだ、野放しにはできない。


 痛めつけられていた男が黒く凝固し消え去った、この隔離世の中にその男はいない。


 いるのは私たち五人と一人、そして今回の妖魔あやかしである洋獅子と女の霊体だけである。


『口惜しや……』とその幽霊がのたまった。


 即、前衛が展開する。


 京志郎警部は、私と吹雪さんの後ろにいる。


 前衛はかおるさんと紅葉もみじさんの二人だ、今の後衛は私とみことちゃんの二人だ。


 吹雪さんもいるが正確には吹雪さんは後衛ではなく前衛でもない、中衛に該当する区分に居られる。


 私も、緋鎧をまとい大太刀を抜けば前衛だ。


 みことちゃんは純粋に後衛だ、接近戦は不得手である。


 薫さんが法具を抜いて独鈷所を剣のように伸ばした、対する紅葉さんは素手にオーラをまとわせた。


 吹雪さんは銃を抜いた独特の形が私の創りだした世界に映える、吹雪さん曰くどこから入手したのか教えてくれなかった。


だが最新式らしい、モーゼルしー96という銃らしい。


 それを銀の弾にしてあるそうで、お金かかってますねーといった装備だった。


 一括りが、十発だそうである。


 西洋ではリボルバーなるものが出回っていて、平均五発から六発入るそうであるがそれも吹雪さんから仕入れた知識だ。


 いわゆる種子島とは、仕組みが違うらしい。


 戊辰戦争で新政府軍が使っていた、ライフル銃というものとも似て異なるモノらしい。


 とかく今は違う、私は洋獅子ではなく女の霊のほうに集中した。


 先制の一撃を当てる、『神鳴しんめい』と唱えた。


 一筋の光が霊体を滅ぼさん、と鳴り落ちる。


 いわゆる神術と呼ばれる術だ。


『火炎』と私の後ろからみことちゃんの唱える声が聞こえる、それも神術の一系統の朱雀の系統の術である。


 私の覚えている系統の神術は人を傷付けることをよしとしない、その代わり治療に関わる全てのことを行うことができる麒麟の系統なのだ。


 そして『火炎』は燃え広がり、洋獅子がその炎の中で吠えた。


 神術の中には汎用的に使われる術と、その系統に入っていないと使えない術との二種類があるのだ。


 そして風吹さんが洋獅子を撃った、轟音とまではいかないがかなり響く。


 だが私の隔離世の中の音は、外には響かない。


 洋獅子が徐々に弱っていく、前衛の二人も元気に戦っている。


 薫が独鈷剣で斬り、紅葉がうまく殴るのだ。


 剣にも拳にも力が、乗っていることが分かる。


 それくらいなら、普段の私の力で分かるのだ。


 私が普通では無いことの表れなのだが致し方ない、見えてしまうのだ。


 洋獅子の力で戦っているだけの女の幽霊のようだ、洋獅子が何かを対価に力を貸したのであろうと推測された。


 霊の力を正しく見抜けるこの力は、私に備わったもので異能というものらしい。


 この隔離世もそうだ、他にもまだ開眼していない能力もあるらしい。


 だが私は自身を見通す目を持たないため、それ以上は分からない。


 姫様いわく、本来は私も特級なのだそうであるが詳しいことは姫様にしかわからない。


 そうこうしているうちに共生関係が成り立たなくなったのか、女の霊が掻き消えた。


 洋獅子に食われたらしかった、力の流れを見る目がそれを告げている。


 洋獅子が一回り大きくなったが、まだ許容範囲内だ。


 畳み込むため神符で包囲陣を敷く、対象の霊力を削ぐ包囲陣を神符五枚で敷いた。


 五榜の星を描く、結界の中に入れられた洋獅子が結界を食い破ろうとする。


 だがそうはさせぬ、私は霊力で持って締め上げた。


 それに合わせ薫さんが剣にオーラをまとわせた、一気にとるつもりだ。


 紅葉さんも合わせた、拳に乗るオーラの出力が増した。


 みことちゃんが『烈火』と唱えた、朱雀系の神術である、朱雀系は火炎系が多いのだ。


 神術は麒麟を筆頭に、玄武、朱雀、青龍、白虎の五つの系譜がある、そして先にいった通り、それぞれが異なる術を持っている。


 烈火の炎が結界内の洋獅子を焼いた、そこに薫が斬り込んで背面に抜き斬った。


 さらに追い打ちで、紅葉の拳が洋獅子の額を捉え殴り飛ばした。


 その結果、洋獅子は黒い残りカスを残して消滅した。


 それを確認した吹雪さんが、「撤収!」とサインを出した。


 私たちは戦闘態勢を解いて、回収するべきものは回収し馬車に乗り込んだ。


 私は『隔離世』を畳んだ、外の喧騒が戻ってくる。


 波賀はが京志郎きょうしろう警部に後を引き継いで、私たちは馬車に戻った。


 京志郎警部が、今回の騒動の見届け役となったのであった。


 後は京志郎警部がうまくやってくれるであろうことを祈って、それぞれが帰り路に付くべく馬車が送ってくれるという寸法である。

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